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スタニスワフ・レム『ソラリス』(国書刊行会)

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惑星ソラリスを調査中のステーションで異変が発生した。原因を調査するべく送り込まれた心理学者ケルヴィンは、異様な雰囲気に包まれたソラリス・ステーションで手がかりを探し始めるが、彼の前に自殺した恋人ハリーが姿を現す… ポーランド語オリジナルからの全訳です。従来の翻訳で底本になっていたロシア語版で削除された部分も全て新たに訳出されているとのことで、わたくしは今回初めて読みましたが読み比べる楽しみもありそうです。読了してから振り返るとこの部分を一番楽しく読んでいたことに気付きました。 まず、意思を持った生物であるらしいソラリスの「海」をたっぷり時間をかけて描写する章。人間とは完全に異質な存在が主人公によってていねいに説明されていまして、これでソラリスに行ってみたくならない人はいないんじゃないかと思うくらい気合いが入っています。あんまり気楽に観光できる場所ではないのですけれども、しかしこれはぜひ見てみたいですよ。 もう一つ、無限に姿を変える海の壮大な描写とは方向性ががらりと変わった地味な一章も実に面白く読みました。今やソラリス学という分野を形成するに至ったこの星の研究史を初期から現代までなぞる「思想家たち」は、架空の本の書評集『完全な真空』に見られるレムの遊び心が覗いていて、架空の星にまつわる架空の研究史なわけですからそりゃもう全部でたらめなんですけれども、実在の科学本を読んでいるのと同じ興奮が味わえました。 この2つのパートがロシア語版では削除されていたそうで、ここを削るなんて旧ソ連の連中は何もわかってねぇなぁと思う一方、ここが重要な箇所だとわかっていたから削った目利きが検閲したのではないかとも想像してしまいました。ううむ。 宇宙に進出した人類が完全に異質な存在と出会ったときどんな反応が生まれるのか。そんな場面に一人の男を放り込んだ本書は、最後の最後までその一点をしっかり見つめ続けて、ある意味で開かれた結末にたどりつきます。SFではおなじみの「宇宙人と出会ってしまった」テーマからスタートしながら友好関係を結ぶのでもなければ戦闘状態に突入もしない、これまで見たこともない相手との対話(までいかないかもしれない遭遇)を誠実に取り扱った小説でした。 ふと気がついたら、死んだはずの恋人が戻ってきたことに始まるラブロマンスとしての流れを、ほぼサイドストーリーみたいに見てしまっていたことに後から気がつきました。二度目の映画化ではこの部分を強化して描かれたりもしているそうなんですけれども、映画化に関してはレム自身があまり良い顔をしていないこともありますし、間違っても甘いラブストーリーだけの小説では断じてありませんし構いませんよね。(弱気) 個人的な感想ですが、この本は読者をソラリス・ステーションに滞在する科学者たちのような精神状態にしてしまう力があるように思います。具体的には「この本のことを一番よくわかってるのは自分、お前らは何もわかってない」という気持ちに。 ソラリス (スタニスワフ・レム コレクション)


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