統計学的な考え方を一般社会にももっと活かすべきだ、という趣旨の本です。 分かりやすいという評判も聞きますが、統計学と一般社会の両方にそれなりの知識や経験を持っていないと読み進めるのが難しいのではないか、とも思います。
最も感心したのは、「一般化線形モデル」について書かれた第21節。 主だった検定や分析を「広義の回帰分析」として一般化できることと、データの種類や分析の目的による方法の使い分けが簡単な表にまとめられることとが、簡潔に説明されています。 使い分けはともかく、例えばt検定と回帰分析とが本質的には同じものだ、という理解には初めて到達しました。 もともと生物学者志望として統計学の勉強もしていたので「一般化線形モデル」という言葉に見覚えはあるのですが、私が出会った教科書では小難しく書いてあったので本質的な理解に届かなかったのです。 末尾の方では、ある種の政策論争や政策評価が、統計学的視点を含めた俯瞰性を欠くために不毛なままである日本社会の現状を、批判しています。 全く同感です。 現場の実務者や専門家である研究者がその成果を実証せず、彼らの仕事を批判する評論家や政治家がろくに論文も読まず、無責任な意見を述べる。一方、彼らの仕事を評価すべき市民側にそうした現状への問題意識がない。
これらをひっくるめて「日本全体での統計リテラシー不足」と言うことができるだろう。
統計リテラシーがなければ、ビジネスの問題と同様に社会や政治に関する問題についても、経験と勘だけの不毛な議論が尽きることはない。・・・ ちなみに、私がそういう方面でいつも気になっているものをひとつ挙げておきます。 新聞などが大好きな、“教育には金がかかる”論。 曰く、東大合格者の親の年間所得は国民平均を大きく上回る、従って、金持ちでないと東大に行けない、理不尽だと思いませんか、皆さん・・・。 年中行事のように繰り返されていますが、高所得者への妬みの感情を喚起することで読者におもねろうとする態度に、心の底からうんざりしています。 実は、多くの人が受け入れ難いかもしれない次のような解釈も可能でしょう。 頭の良さは遺伝する・東大合格者の親は高知能・高知能の親は高収入・・・。 もちろん、これも極論のひとつです。 単なる相関関係に、偏った因果解釈を強引に当てはめると、こうこうことが起こります。