272日目。よく「女同士の友情って、男に比べて薄っぺらいよね!」みたいな意見を聞きますが、アレは実際はどうなんでしょうか? もちろん個人の性格に依存する話ではありますが、一般的に見ても、ボクは女性同士の信頼関係を薄っぺらいと感じたことはありません。『テルマ&ルイーズ』『フォーエバー・フレンズ』『フライド・グリーン・トマト』など、女性の熱い友情をテーマにした映画は多々あるし、「女同士だとドロドロするの!」とも聞きますが、嫉妬や陰口や噂話が好きな男だって腐るほどおります。「女同士の友情」うんぬんを男が語っているのだとすればただの愚行だし、女性がそれをネガティブに語るなら、その人がまだ本当に気の合う同性と知り合ってないだけなのでは?とも思うのです。偉そうだな。すんません。すんません。なんで急にこんな話をしているのかと言うと、最近女性の友情をテーマにした小説を立て続けに2冊、拝読したからなのでした。
まず1冊目が直木賞作家・角田光代氏の最新長編小説『笹の舟で海をわたる』。昭和30年から現代までの、2人の女性の友情と確執を描いたこの作品は、特に事件らしい事件の起きないありふれた人生の中で、人と人が長く関わって生きていくということが、どれだけドラマチックな出来事なのかということを教えてくれます。 戦前の、いわゆる「古風」な女を象徴する主人公「左織」と、戦後の、新しい日本の女性を体現する「風美子」。風美子の行動や考え方は全く納得できないのに、彼女を頼りに生きていくしかない左織と、欲しいものは自分の力でどんどん手にしていくのに、なぜか左織に執着する風美子。高度成長期の東京を舞台にした前半では「風美子」が薄気味悪く感じるのですが、時代が移るにつれ「左織」に違和感を覚えるようになるという、読み手の感情遷移をコントロールしきった構成が見事です。『紙の月』も拝読しましたが、こういう「アタシ間違ってないよね?」などと問いかけてくるような、ちょっとズレた女性を描かせると、角田光代氏は天下一品ですな。 2冊目はこちらも直木賞作家の奥田英朗氏の最新作『ナオミとカナコ』。400ページ以上の大作にも関わらず、手が止められずボクはほぼ1日で読了しました。 学生時代からの親友である直美と加奈子。結婚後、夫に酷い暴力を受けていた加奈子のために、直美はその夫を「排除」することに決め、二人で計画を立て実行に起こすまでの前半が、直美の視点。「排除」が終わりひとときの安息とその後に始まる逃走劇の後半が、加奈子の視点で描かれております。女性同士のクライムストーリーは『テルマ&ルイーズ』を彷彿させますが、この小説では奥田氏の見事なストーリーテリングで、何の違和感もなく、前半は直美の気持ちに、後半は加奈子の気持ちに、ズッポリ感情移入できます。幕切れは、ここ最近味わったことのないような鮮やかさ。素晴らしいです。 左織と風美子。直美と加奈子。まったく違う関係性の2組ですが、共通点としては「そもそもお互い分かり合えるはずがない」というスタンスが底流にあるような気がします。語らなくても分かり合える関係を強調しがちな男同士に比べ、女同士は分かり合えないことが前提だから、お互いに尊敬したり軽蔑したり嫉妬したり抱きしめ合ったりするのでしょう。それはそれで、羨ましいような気がするのです。偉そうだな。すんません。すんません。