時間勾配のゆがみによって正確な地図を作成することが困難な世界。南北にある二つの大陸の間に赤道を挟んで広がる夢幻諸島の島々を、旅行案内や短篇小説などのさまざまな形式で紹介したガイドブック、というスタイルの連作短篇集です。ややこしいと思われましたら、最後の「連作短篇集」だけおぼえておいていただければ多分大丈夫です。
本書の世界観を教えてくれる序文と言い、面白そうなタイトルがずらりと並んだ目次がわりの島名索引と言い、SF小説にしてもかなり変わった雰囲気であることはすぐにおわかりいただけるかと思います。ガイドブックとして見てみますと、島ごとの見所や名物についてはともかく交通手段とか宿泊に関する情報はさほど詳しくないので、「これ一冊で夢幻諸島の旅は完璧!」というタイプではないですね。ただこの本を読みながら旅先に想像をめぐらせ、旅程を決めるのはとても楽しそうです。どちらかと言えば、読者を夢幻諸島への旅に誘うために観光協会が作成したパンフレットみたいなポジションだと思います。
それぞれの島に関する記述はバラエティに富んでおり、きわめて危険な有毒生物の発見エピソードもあれば島のレクリエーション紹介もあり、ある島の劇場で起きたパントマイムアーティスト殺人事件の記録や、ある島にまつわる一つの短篇小説として書かれたページもあります。
広いようで狭い夢幻諸島の物語を読み進めるうちに、各島のエピソードに時折共通の人物が登場することに気付かされます。特に作家や画家など、芸術家たちの関わりについては、一度最後まで読み終えてからもう一度関連する島の項目だけを拾って読み直したくなります。前述した序文を書いている人物も夢幻諸島にかかわる人物だったりして、楽しく読んだあとに「!?」がやってくるプリーストの小説でおなじみの楽しさを味わえました。
がちがちのガイドブック形式を守っているでもないのですが、いくつもの項目の間の関連性探る読み方が出来るところは『ハザール事典』にちょっと似ていて、あちらが好きだった方はきっと楽しめると思います。
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クリストファー・プリースト『夢幻諸島から』(早川書房)
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