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幽霊(11)

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                幽霊(11)

「もう最低だわ。私に彼ができたことがわかると豹変したの。彼の会社も素性も全部知ってたわ。うちの会社の取引先だから、部長の人脈を使えば彼の給料袋の中身だってわかるし、減らすことだってできるかも知れない。彼のことが好きなら俺に抱かれろって言うのよ。彼の上司に直訴しても、うちの会社の上層部に直訴しても、結局不利になるのは彼のような気がするの」
「はっきり言わなきゃ駄目よ。パワハラよ、パワハラ」
 そんなことは絵里子が言わなくてもわかっているはずよ。まったく絵里子はいつまで経っても単純な女だ。それができるならとうの昔に話は解決している。
「話はそれだけじゃないの。部長は横領もしていると思う。しかも手口が巧妙で、このことが明るみに出れば、真っ先に疑われるのは俊介君と私なの。かなりの額よ」
 貴子は二人に顔を近づけ、小さな声で言った。どうやら貴子の相談は、こちらの話がメインらしい。だけど、部長の横領って、私があっちの世界で経験したこととそっくりだ。どうなってるのかしら。お尻に尻尾がぶら下がっていそうな気がしたけど、そんなものは無かった。
「横領って、どうやって、額はどのくらい?」
 俊介が眉間に皺を寄せて訊いた。
「おおよそだけど、三千万位よ。方法はネットバンキングの不正利用だと思う。この会社の上層部はそういう仕組みに疎いのよ。だから部長に任せっきりでチェック機能は皆無ね。その気になれば、会社の預金全てを盗むことだって可能よ。ごっそり持って海外逃亡なんて考えてるかも知れない」
 俊介は腕組みをして考えている。
「上層部に洗いざらい話せばいいじゃない」
 絵里子が言うと、
「いや、確かな証拠でもない限り、疑われるのは俺たちだよ。もしも俺の給料口座に大金が振り込まれてたらどうする。そして、いつの間にか引き出されてたら弁解しようが無いよ。それに、ネットバンキングのパスワードはダブルチェックになってて、一つは担当の俺と、管理責任者の部長の二人だろう。貴子は部長のパスワードに一番近いからね。俺たちが疑われるって言うのはそういうことだろう? 部長は自分に都合のいいようにデータを改ざんして、知らぬ存ぜぬを貫けば罪を免れることができるのさ。そして、部下の不祥事の責任を取って辞職する。後は国外で悠々自適さ。部長のパワハラも、考えようによっては計算ずくかも知れないね。貴子は部長を恨んでたってことになれば、動機として成り立つから、一石二鳥だね。大した悪党だよ。色と金を両方手に入れて、趣味と実益を兼ねてますって、大笑いしているさ」
 絵里子も貴子も黙り込んだ。
 俊介の奴、以外と頭の回転が速いわ。その通りよ。部長の品性の低さと狡さは天下一品よ。仕事はできないくせに悪知恵だけは働くのね。
「じゃぁ、このまま黙っているの?」
 絵里子は思春期の少女のような、か細い声で言った。ミニブタの私を叩いた女とは別人のようだ。
「だから今日相談しているの。何かいい方法があるはずよ」
 そうよ、その調子よ。貴子の顔に勝ち気な一面が見えた。私はあちらの世界で経験済みよ。部長を追い詰めて白状させるの。それしか無いわ。だけど、どうやって教えればいいのかしら。昏睡状態の自分がもどかしい。
「部長の横領を知ってるのは貴子だけ?」
 俊介が訊いた。


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