『巨大津波 その時ひとはどう動いたか』 NHKスペシャル取材班 2013/03 NHKの同名の番組の取材内容をまとめた本。 取材地は宮城県名取市閖上(ゆりあげ)地区。仙台市の南、仙台湾の中ほどの場所だ。 最初の地震の後、多くの人は周囲の壊れた物や散乱した物の原状復帰を行い、逃げようとはしていない。この地区を津波が襲ったのは、地震から1時間10分後。日常生活に戻るための時間を犠牲にして避難するからには、それに見合っただけの危険でなければならない。無駄かもしれないが逃げようという気持ちにはなりにくいという心理だ。 防災心理学者は、人間は避難したがらない動物なんだと述べる。 閖上では停電時でも作動するはずの防災無線が故障して作動しなかったことが、人々により厳しい判断を迫ることになった。市役所(津波の来ない内陸)にあった防災無線の送信機が地震の揺れで故障していたが、職員が故障に気付いたのは津波到達3時間後だった。防災無線が何も呼びかけないので安心していたという人もいる。 NHKでは3時25分に釜石に4m20cmの津波が押し寄せているという情報を伝えるまで、各地で観測された第1波数十cmという情報を放送していた。この報道は裏目に出た。大津波警報が出ても結局いつもどおり数十cmの潮位変化なんだと受け取られた。10m以上の巨大津波が押し寄せているという報道は3時32分が最初だ。閖上に津波が来るまでにはまだ20分あり、十分間に合ったが、人々はこの情報を聞いていなかった。最初に数十cmという情報を聞いて安心してしまうと、そこから先新しい情報に更新し難いという「心の罠」だと述べる。
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