7.3点
ずる賢い冷血漢の兄チャーリーと、心優しいけど、切れると大変なことになる弟イーライ。
殺し屋であるシスターズ兄弟は、雇い主である「提督」の命令の元、ある男を殺すために、
ゴールドラッシュで沸き立つサンフランシスコへ向かう。
「西部劇」ではあるけど、主人公の二人はもちろん、登場するのはイカれた人ばかり。
一攫千金を夢見、成功したものは下品にそれを誇示し、成功者に媚びへつらうものもあれば、
夢破れて狂う者もいる。
強盗も頻発し、殺人だって当たり前、そんな生き馬の目を抜く(実際抜くシーンもあるんですが(^^;))
ような世界を旅する二人。
しかーし、そこに緊迫感はあまり無し。
というのも、語り手が、少し愚鈍で心優しい弟イーライだから。
その間の抜けた様な語り口が、本来なら、ドロドロとして陰惨なシーンの描写も、
手に汗握る絶対絶命の状況も、変にコミカルな雰囲気にしてくれている。
そして、それがまたこの小説の良さでもある。
殺し屋専門のレストランを舞台に、イカれた殺し屋ばかり登場する平山夢明の「ダイナー」(リンク先感想)に
比べると、登場人物のイカれっぷりはかなり弱いけど、それでも、「ダイナー」でも感じた、
イカれた奴らの醸し出す、人間としての純粋さや、それ故の悲しさが全編に漂い、
欲望に満ち溢れた殺伐とした世界と、人間らしさの対比が際立つ。
何故相手を殺さなければいけないかも不明な、殺し屋兄弟二人の珍道中。
騙し騙され、襲い襲われ、アメリカのゴールドラッシュ時代の旅は、
この作品の登場人物のようにイカれた奴らばかりではなかったろうけど、
それでも、命がけの旅、すごく危険だったろうなーというのも、想像できる。
不思議な魅力があった作品。
特に、心優しくて、使えない馬を大事にし、自分の稼ぎはすぐ人に分け与えてしまったりするのに、
目撃者である、でも罪はない少年をサラっと殺しちゃったりする、イーライのキャラクターが良かった。
面白く読めました(^^)。
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