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ジョン・ディクスン・カー『月明かりの闇』(ハヤカワ文庫)

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アメリカ南部の名家メイナード家を若い友人と共に訪れたフェル博士。最近奇妙な事件が続発していた邸で、ついに当主が殺害される。一族に伝わる呪いを再現したかのように、死体の周りには被害者自身の足跡しか残されておらず… 副題に「フェル博士最後の事件」なんてついてるもんですからフェル博士がどうやっても告発できない犯人と対決したあの探偵や事件そのものは解決しても全く救えない因縁に絶望して日本を去ったあの探偵みたいになってしまったらどうしよう…と震えながら読み始めました。が、半分くらい進むまで皆で野球なんかしていて大きな事件も起きないし、お互いに好意を持っていながら素直になれない男女もいるし、それとは別に周囲の男性に対して無意識の魅力を発揮する女性もいるし、あまりにもいつも通りのカーで少々戸惑いました。『火刑法廷』の結末もでしたけれども、カーは結構怖い話も書いているのでフェル博士までそっち行っちゃうのかと心配していましたが、大体通常営業のフェル博士でしたよ。最後の事件といっても探偵役が退場するわけではなく、単純に最後に書かれたフェル博士ものだったようです。ふうー。 平常運転のカーということで、今回も状況的にあり得ない犯罪が行われます。この謎を解明するため、主人公たちが南北戦争時の要塞を訪問する場面に妙にわくわくさせられまして…別にトラベルミステリのつもりで読んではいなかったので、自分のそういう反応にややびっくりしました。そう言えば『帽子収集狂事件』のロンドン塔も、思わず行ってみたくなるたたずまいでした。歴史好き・史跡巡りが好きな方にカーはおすすめです。 博士が現地の警部と議論を重ねている脇でラブコメをしている主人公に気を取られているうちにさらに事件が重なり、序盤ののんびりペースが嘘のように息もつかせぬ展開に切り替わります。真相に繋がる隠された事実が明らかにされてから一気にクライマックスに突っ込む流れはまさにページをめくるのがもどかしく、もうちょっと本を大きくしてくれと無茶なことを考えてしまいました。 月明かりの闇 〈クラシック・セレクション〉 (ハヤカワ・ミステリ文庫)


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