ゲンちゃんは幼なじみだ。それこそ物心ついた頃から知っている。 なのに、ゲンちゃんはどこに住んでいるのか、いつ逢いに来てくれるのか、一切教えてくれない。 最初にゲンちゃんと会ったのはいつだったか覚えていないが、たぶん母さんにひどく叱られて押し入れに閉じ込められた時だったと思う。ゲンちゃんは襖の外から声をかけてくれた。そのときは確か母さんがなにか大怪我をして父さんが慌てて帰ってきた後、子供はどこにいるのかと大騒ぎになって襖から出してもらうことができた。 思い出すのは、小学校で虐めに合っていたとき、助けてくれたのはゲンちゃんひとりだけだった。学校帰りに四、五人に取り囲まれて小突かれていたら、ゲンちゃんが現れてみんなを蹴散らしてくれた。どうやったのかは覚えてないが。 その後も、なにか起きる度にゲンちゃんは現れて助けてくれた。そういう意味では親友というよりはゲンちゃんは僕のヒーローだ。 大人になってからはめっきり合うことは少なくなったけど、それでも数年に一度は会いに来てくれる。さっきも会社の玄関ホールを覗きこんでいるゲンちゃんを見かけた。たぶんまた助けに来てくれたのだ。 いま僕はちょっとしたミスのために無能呼ばわりされるようになって、降格人事をされてしまった。次にはリストラされてしまうかもしれない。憎いのは守ってくれない直接の上司だ。あいつのせいだ。 ゲンちゃんがエレベーターに乗ってこのフロアにあがって来るのを見た。いまちょうど上司は手洗いに立ったようだ。ゲンちゃん、なにかするつもりだろうか。 僕はちょっと怖い。怖くて見に行けない。だって僕にそっくりのゲンちゃんがトイレに向かっているのがわかるから。ゲンちゃんは僕のためにいろいろやってくれているのを知っているから。 幼なじみで親友のゲンちゃん。僕のドッペルゲンちゃん……。 了





