『言葉と脳と心』 山鳥重(あつし) 2011/01 著者は医学博士。高次脳機能障害の臨床に従事。 失語症の症例から脳機能を考える本。 日本には52.9万人くらいの失語症患者がいると推定される。小児の発達性言語障害や、老人の認知症性の言語障害は失語症と呼ばない。 失語症は主に脳卒中などの脳血管障害によって起こる。 「脳は考えない」「心が考える」、脳は物理化学的活動をしているだけと述べる。この本では、「脳」というのは脳の一部分の反応を指し、「心」は脳全体の機能のことを意味するらしい。 名前がわからなくなる、健忘失語というものがある。物(事)のカテゴリー分けがうまくできなくなるという症例。「机はどれ?」と聞かれて、目の前の机が自分の机とは違うので「机」と呼んでいいのかどうか、というところで思考が止まってしまう。物以外に「赤色」などでも起きる。 ブローカ失語症では発話できなくなる。症状のレベルは様々だが、精神的には健全で、人の言うことは理解している。歌は歌えるのに、会話になると単語が2,3しか使えない。著者はプロソディ障害だという。プロソディとは言語特有の速度やリズム、抑揚や強勢を意味する。我々は日本語特有のプロソディに乗せて言語を発している。ブローカ失語ではこのプロソディが壊れているという。 ウェルニッケ失語では聴いた言葉が理解できず、話す言葉は滑らかだが意味不明になる。著者が見た症例ではたまにこちらの言うことが理解されている。患者自身は言いたいことを正しく言っていると思っているらしい。言語(音声)と言語心象の結びつきが崩壊している。 失語症発症の心理メカニズムは150年前のブローカによる最初の臨床研究発表以降まったく進んでいないともいえると述べる。
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