(作品紹介) エブリスタ 電子書籍大賞ミステリー部門(角川書店)優秀賞 怪盗ロワイヤル小説大賞 優秀賞ほか 期待の新鋭!! 綺麗なお姉さんは、骨と謎がお好き? 変わった趣味持ちの美人お嬢様と草食男子高校生が難事件に挑む!最強キャラ×ライトミステリ開幕!! 北海道、旭川。平凡な高校生の僕は、レトロなお屋敷に住む美人なお嬢様、櫻子さんと知り合いだ。けれど彼女には、理解出来ない嗜好がある。なんと彼女は「三度の飯より骨が好き」。骨を組み立てる標本土である一方、彼女は殺人事件の謎を解く、検死官の役をもこなす。そこに「死」がある限り、謎を解かずにはいられない。そして僕は、今日も彼女に振り回されて……。エンタメ界期待の新人が放つ、最強キャラ×ライトミステリ! (角川書店ウェブページより)
(感想は追記にて)(感想) あらかじめご注意を。この感想はかなり本作品に批判的内容になっています。本作が好きな方は気分を害される恐れがありますので、読まないことをおすすめします。 電子書籍大賞ミステリー部門(角川書店)優秀賞、怪盗ロワイヤル小説大賞優秀賞などを受賞されている作者の作品。「桜の樹の下には屍体が埋まつてゐる」とは梶井基次郎さんの作品の有名な一節ですが、それを思い起こさせるようなタイトル。鉄雄さんが描く、ライトノベルも彷彿とさせるような表紙(鉄雄さんは『空ろの箱と零のマリア』なんかのイラストを担当されています)。そして、「期待の新鋭」「次にくるキャラミスはこれ!」といった帯の煽り文句。これを思わず手に取ってしまいます。しかし、この作品。私的には久しぶりの壮絶な地雷でした。 一番の不満。それはこの作品「ライトミステリ」なんて銘を打たれていますけども、「ミステリではない」ことです。 この作品は全3編で構成されています。そのうち最後の1話はあまりにミステリとして読める部分が少ないです。1,2話に関しては、死体がある。それは密室殺人に感じたり(1話)、無理心中に感じたり(2話)するもの。しかし、果たしてそれは本当に真実なのか。この謎を櫻子さんが鮮やかに解き明かすところがミステリと言いたい部分かも知れません。 しかし最大の欠点。それは、その事実の根拠となる部分が作中では語られず、櫻子さんの口から語られることで初めて分かることです。最初から読者に対してフェアじゃないんですよね。 櫻子さん「あの部分がおかしかっただろう」 主人公「たしかに言われてみれば……」 なんてやられても、読者は一体どう納得すれば良いんでしょうか?ミステリの楽しみの一つに、与えられた条件から自分で謎を解き明かすことがあり、或いは自分で謎が解けなかったにしても探偵役の解説によりちりばめられていたピースが組み立てられることで真実が見えてくる爽快感にあると思います。果たして、作者によって意図的にピースが隠されていて、それを解決編で初めて明かされることに爽快感は生まれるでしょうか。私は理不尽だとしか思えませんでした。この部分をごまかすために「ライトミステリ」と言っているのだったら、ごまかしにもほどがあると思います。「ライト」という言葉は、条件を満たしていないことに対する免罪符にはしてはいけませんし、なり得ません。 ミステリ部分を読んでいて、作者の苦労というのを全く感じられなかったのも私には悪印象でした。私がミステリ作家を尊敬している理由として、そのトリックの鮮やかさから、「一体どれほど考えたのだろう」と思う部分があります。しかし、1話(作中の表記で言うと第一骨)を読み終わったとき、作者の描きたいイメージが合って、それにパーツを組み合わせていっただけに過ぎない、と感じてしまいました。そして、一見するとミステリのように見えるように、意図的にパーツを隠している、と。1話に関しては、「ホワイダニットか?」とも思ったのですが、印象に影響を与えるような部分を隠されていては納得しかねます。 ではキャラクター部分に魅力があれば多少は納得できるかもしれません。しかし、キャラ部分についても弱さを感じてしまいました。これに関しては、私が基本ライトノベル読みであるということの影響も大きいかもしれません。しかし、主人公はライトノベルのテンプレートのように人畜無害無味無臭キャラクターであるのはいかがなものかと。 それは櫻子さんのキャラクターを引き立てるため、櫻子さんに振り回されるためのキャラ立てかもしれません。しかし肝心の櫻子さんのキャラクターが感心しませんでした。美しい骨を愛でるのが好きなお嬢様。これはいいと思います。ライトノベルのキャラクターにおいて、ちょっと理解できない趣味を持たせるのはよくあることです。しかし、櫻子さんの最大の欠点。それは「人間味のあまりのなさ」これにつきると思います。 それは最終話によく現れていると思います。確かに最終話のあるキャラクターの独白は、個人的な恨み、復讐と言われて仕方ないことだと思います。しかし、そこに一定の理解を示しつつやっていることの悪さを指摘する人情派、或いはお前のやっていることは絶対に間違っているという絶対的な正義感を発揮する英雄派(この言葉のチョイスが正しいか分かりませんが)のキャラならよかったのですが。櫻子さんの場合ただただ事実を指摘するだけの傍観者でしかありませんでした。そこに人間味は全くありません。パソコンと一緒と言っても過言でないと思います。 醜いながらも人間らしい感情を爆発させるキャラクターを、ただただ事実を指摘する。そこに相手を理解しようとする態度も、糾弾する態度もない。そこから起こるのは、櫻子さんに対する嫌悪感だけでした。あまりに人間味がなさ過ぎる。このキャラクターを理解するのは無理だ。その思いだけでした。キャラクター小説として、これは致命的だと思います。 始めは割と楽しめたのですが、ミステリ部分で違和感を感じつつも、面白くなることを信じて最後まで読んだのですが、その期待は完全に裏切られてしまいました。それどころか、最後の最後に徹底的に後味を悪くしてくれた、とさえ感じました。私の中で後味の悪い、胸くその悪くなる作品と言えば『告白』だったのですが、それを越えたかもしれないほどです。 「一体この作者はこの作品でなにを表現したかったのだろう」。最後の最後まで私がこの作品に対して肯定的になれなかった理由は、途中で感じてしまったこの疑問の影響も大きいと思います。 ライトミステリと銘を打たれている割には、ミステリ要素は感じない。作品の味付けとしてミステリっぽい要素を取り入れてみたようにしか感じません。キャラのやりとりを楽しむにしては、櫻子さんのキャラクターは致命的に人間味に乏しい。「エンタメ界期待の新人」とも紹介されていますが、エンターテイメントは感じる事ができませんでした。かといって、作品の核となるようなテーマを感じる事もできず。「最強キャラ×ライトミステリ」とされていますが、すべてが中途半端にしか感じられませんでした。 ちょっと期待しすぎたかなぁ、とも思いますが。申し訳ないですが私が2巻以降を読むことはないでしょう。本屋大賞を受賞した『謎解きはディナーのあとで』を一瞬思い浮かべました。あちらも、お嬢様のキャラの不快感を感じましたが、ミステリとしてみた場合あちらの方が上で、曲がりなりにも本屋大賞なんだなぁ、と今更ながら感じました。 作品の煽り。1巻が二月で2巻が五月というライトノベルのような刊行ペース。出版社が角川書店。ということで、アニメ化と言った展開も一瞬思い浮かべましたが。正直微妙かなぁ、と思います。アニメ化した場合、私が感じたミステリ部分のアンフェア感はなくすことができると思います。しかし、アニメファン向きのキャラではないと思いました。↧