「じゃあ今井、しばらく頼むな。」
「今井さん、会社が忙しい所、すみません。」
同い年のうちの社長と、その奥さん。
これから新婚旅行に行く。
「初めての長期休暇じゃないか?ゆっくりしておいで。」
僕は笑顔で見送った。
結婚式を挙げてから、数ヶ月は経っていた。
仕事の少ない時期を待っての新婚旅行だった。
僕はこの二人が大好きだ。
最初、彼女がバイトで入ってきた時から、近藤の様子が、今までの知っている近藤とは、何かが違った。
僕は、確信的な予感を懐きながら、そっと二人を見守っていた。
羨ましい位、二人の関係が仲睦まじいので、快く見送る。
本当に良かった。
自分の事の様に嬉しい。
一人でしばらく会社を任されることになった。
と、いってもあいつの仕事は済んでいるし、あとはいつものことだ。
「あのー、今井さんって、あの有名な今井建設の息子さんなんですか?」
あるバイトの女子職員に聞かれた。
有名?
「そうだけど…。」
「スゴイー!」
目が輝いてる。
「凄くないよ。」
とにっこり笑って、僕は返した。
…僕で凄いなら…
と、近藤の姿が頭をよぎった。
近藤に初めて出会ったのは、高校の入学式だった。
自分は、一般的な家庭で育った。
貧しい時期もあったが、景気がよくなり、生活が一気に豊かになった。
父は、建設業を営んでいたのだが、かなり大手の会社である、近藤グループの傘下に入ったのだ。
父は仕切りに、僕と同じ年の近藤グループの息子の話題を出していた。
高校は、近藤グループの子供たちが通う私立学校を選ばされた。
入学式の直前まで、父から、跡取り息子の彼に取り入るようにと、教えられていた。
内心、面白くないのと、野心が芽生えていた。
どんなやつだと探そうと思ったが、それは無駄な事だった。
すぐわかった。
彼の周囲には人が絶えず集まっていて、彼は常にその中心にいた。
彼が、そうだ。
人当たりがよく、爽やかなルックスと会話、制服の綺麗な着こなし、身のこなし。
僕が思い描いていた、お金持ちの息子とは全く違った。
僕の隣で女子が騒いでいた。
「きゃー!あれが近藤くん!?格好いい!」
はっとして、自分のクラスの中に入る。
振り返ると、うちの教室の入り口には、他のクラスの女子が集まっていた。
女子と一緒に近藤に見とれていた。
最初から僕の野心は、二の次になってしまっていた。
誰もが彼に興味を抱いていた。
教室には、近藤グループの傘下に入っている息子たちが、先輩たちも含め挨拶にやって来ていた。
彼は、元々面識があるのか、臆する事もなく、「お久しぶりです。宜しくお願いします、先輩。」など、一人一人丁寧に挨拶していた。
僕らは、同じクラスだった。
仲良くなる…というほどでもなく、僕は距離を取っていた。
ただのクラスメイトとして、僕達は顔見知りとなった。
彼は、非の打ち所がないかのように、全てが完璧だった。
昔からの友人たちも多く、華やかな人物たちが彼を当たり前の様に取り囲んでいた。
だけど、表にたつのが得意、と言うよりは、たたされてしまうのだろう。
彼自信は控えめで、後ろから周りの様子をよく見ているような、そんな人物に見えた。
そんな穏やかな性格も、彼の良さを一段と引き立たせ、彼の取り巻き以外の、女子のみならず、男子にも人気があった。
一学期が終わる頃だった。
最初の進路相談があった。
希望を用紙に記入する。
僕は勿論、建築家。親父の後を継ぐ。
その為に建築を学べる大学へ進学する希望を書いていた。
前の席は近藤だった。
後ろから希望用紙を回した時に、近藤がそれをじっと見ていた。
「…何?」
と聞くと、こっちをじっと見て、
「…夏休みに、イサムノグチの展示会あるけど…行く?」
と、言った。
「行く。」
と、僕は即答した。
近藤は、にやっと笑って、希望用紙を前に廻した。
それから、近藤と僕は、長い付き合いになる。
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