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第十章 番外編  ~ そのいち ~

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「じゃあ今井、しばらく頼むな。」 「今井さん、会社が忙しい所、すみません。」 同い年のうちの社長と、その奥さん。 これから新婚旅行に行く。 「初めての長期休暇じゃないか?ゆっくりしておいで。」  僕は笑顔で見送った。 結婚式を挙げてから、数ヶ月は経っていた。 仕事の少ない時期を待っての新婚旅行だった。 僕はこの二人が大好きだ。 最初、彼女がバイトで入ってきた時から、近藤の様子が、今までの知っている近藤とは、何かが違った。 僕は、確信的な予感を懐きながら、そっと二人を見守っていた。 羨ましい位、二人の関係が仲睦まじいので、快く見送る。 本当に良かった。 自分の事の様に嬉しい。 一人でしばらく会社を任されることになった。 と、いってもあいつの仕事は済んでいるし、あとはいつものことだ。 「あのー、今井さんって、あの有名な今井建設の息子さんなんですか?」 あるバイトの女子職員に聞かれた。 有名? 「そうだけど…。」 「スゴイー!」 目が輝いてる。 「凄くないよ。」 とにっこり笑って、僕は返した。  …僕で凄いなら… と、近藤の姿が頭をよぎった。 近藤に初めて出会ったのは、高校の入学式だった。 自分は、一般的な家庭で育った。 貧しい時期もあったが、景気がよくなり、生活が一気に豊かになった。 父は、建設業を営んでいたのだが、かなり大手の会社である、近藤グループの傘下に入ったのだ。 父は仕切りに、僕と同じ年の近藤グループの息子の話題を出していた。 高校は、近藤グループの子供たちが通う私立学校を選ばされた。 入学式の直前まで、父から、跡取り息子の彼に取り入るようにと、教えられていた。 内心、面白くないのと、野心が芽生えていた。 どんなやつだと探そうと思ったが、それは無駄な事だった。 すぐわかった。 彼の周囲には人が絶えず集まっていて、彼は常にその中心にいた。 彼が、そうだ。 人当たりがよく、爽やかなルックスと会話、制服の綺麗な着こなし、身のこなし。 僕が思い描いていた、お金持ちの息子とは全く違った。 僕の隣で女子が騒いでいた。 「きゃー!あれが近藤くん!?格好いい!」 はっとして、自分のクラスの中に入る。 振り返ると、うちの教室の入り口には、他のクラスの女子が集まっていた。 女子と一緒に近藤に見とれていた。 最初から僕の野心は、二の次になってしまっていた。 誰もが彼に興味を抱いていた。 教室には、近藤グループの傘下に入っている息子たちが、先輩たちも含め挨拶にやって来ていた。 彼は、元々面識があるのか、臆する事もなく、「お久しぶりです。宜しくお願いします、先輩。」など、一人一人丁寧に挨拶していた。 僕らは、同じクラスだった。 仲良くなる…というほどでもなく、僕は距離を取っていた。 ただのクラスメイトとして、僕達は顔見知りとなった。 彼は、非の打ち所がないかのように、全てが完璧だった。 昔からの友人たちも多く、華やかな人物たちが彼を当たり前の様に取り囲んでいた。 だけど、表にたつのが得意、と言うよりは、たたされてしまうのだろう。 彼自信は控えめで、後ろから周りの様子をよく見ているような、そんな人物に見えた。 そんな穏やかな性格も、彼の良さを一段と引き立たせ、彼の取り巻き以外の、女子のみならず、男子にも人気があった。 一学期が終わる頃だった。 最初の進路相談があった。 希望を用紙に記入する。 僕は勿論、建築家。親父の後を継ぐ。 その為に建築を学べる大学へ進学する希望を書いていた。 前の席は近藤だった。 後ろから希望用紙を回した時に、近藤がそれをじっと見ていた。 「…何?」 と聞くと、こっちをじっと見て、 「…夏休みに、イサムノグチの展示会あるけど…行く?」 と、言った。 「行く。」 と、僕は即答した。 近藤は、にやっと笑って、希望用紙を前に廻した。 それから、近藤と僕は、長い付き合いになる。

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