彼と共に、実家に帰ると連絡をし、彼の家から離れた町にある、私の実家へ向かった。
結婚の報告と、びっくりさせてはいけないので、彼の事情も簡単に、事前に説明していた。
かなりの資産家ではあるが、彼はそれを気にして身分を明かしていなかった事も、私も今後、今の生活を変える気が無い事も、子供が出来る見込みはない事も。
家族の言いたい質問は大体予想できるが、家族も私の考えていることを予想しているようだ。
私が納得した上で決めた結婚で、解決している問題だからと理解してくれてか、それ以上については聞かれなかった。
久しぶりの実家は、やはりほっとした。
一緒に生活していると、色々問題が出てきたが、家族の存在は自分の支えになっている。
「おかえり。久しぶりだね。元気だった?」
と、何も特別な事は無いように、笑顔で母が迎えてくれた。
とりあえず、心配していた様子では無くて良かった。
「はじめまして。近藤です。」
と、私ですら緊張するのに、彼は落ち着いた様子で挨拶してくれた。
「はじめまして。この子から聞いてます。ほら、お父さん、紗己子が帰ってきたわよ。」
その様子に、彼と二人で顔を見合わせてほっとした。
家の中に入ると、大分頑張って片づけた形跡がある。
彼の存在も、お客様として、丁寧に扱ってもらえた。
雑な扱いをされずに済んで、一先ず安心。
父も、常日頃、婿が来たら威厳を見せたくてしょうがない様子ではあったが、きちんと対応してくれている。
まあ、彼の印象が良いからなんでしょうが。
「はじめまして。近藤将希と言います。」
と、彼が先に挨拶を始めた。
「はじめまして。まあ、疲れたでしょう、座りなさい…」
と、すすめた父に対して、
「まず、先に謝りたいことがあります。」
と、彼は椅子を避けて父の前に正座をした。
え?もう?
と、思い、すぐ彼の横に座った。
「お話は聞いていると思いますが、娘さんと結婚させて頂く事になりました。まず、こちらにご挨拶と、結婚の許しのお伺い立てるべきでしたが、遅くなってしまって、申し訳ございませんでした。」
と、頭を下げた。
その、あっぱれな姿に、居間に入ってきた母や姉も、家族一同見惚れっぱなし…。
さすが、大人の男!締める所は締める!
こんな事をしようと、考えていたなんて…。
私も続いて頭を下げた。
…ちなみに、こういうきっちりした形式は、父が最も好む事…。何故、父の好みがわかったのだろう?
やりすぎても角が立つけど、何だが、とても雰囲気が好感触だった。
「いいよ、いいよ。もう頭を上げて。ほら、座って。」
と、場は和んだまま、一同着席した。
「…二人ともいい歳だし、自分たちで決められるだろう?親があれこれ口を挟む年齢でもないし。この子の選んだ人なら、間違い無いと信じています。」
父は、改まると敬語になる。
確かに、「信じて」くれているが、「間違いない」にプレッシャーを感じ続けこの年齢まで来てしまったのだが…とうとう、「間違いない」人が現れて、父も安心してこの決め台詞を言えているのだろうな。
…言わせられる人を連れてこられて、本当、に良かった。
二人はどこで出会ったとか(ちなみに、職場でという事になっている)式はいつにするとか、今後の予定は…など、彼の魅力に家族もはまっているようで、彼を和に入れて話が進んでいった。
受け入れてもらえて良かった。
でも、何故か私はこの光景を俯瞰で見ている。
まるで私の存在は消えているようだった。
そうね、私の話は後でもいくらでも出来るものね。今は、家族の新メンバーの話が中心だもの。
…家族との距離感が遠く感じられた。
頼られず寂しくもあったが、この家からもう解放されたのだと思うことにした。
我が家の挨拶も、小一時間程度で終わった。
「では、式の日は宜しくお願いします。今日は、ゆっくり出来なくて申し訳無いです。」
「いやいや、遠いから、気を付けて帰りなさい。」
みんな和やかに見送ってくれた。
立つときに母から手紙をもらった。
「素敵な人で良かったね。幸せにね。」
と、耳打ちされた。
「ありがとう。」
ふふ、と笑いあった。
帰りの彼の車の中。
「良かった。怒鳴られるか、殴られるか覚悟していたよ。」
「あ…ごめんね…そんなにプレッシャーになっていたとは…。私が変な話聞かせたから…。」
すると、彼はふっと笑った。
「違うよ。男なら、結婚する時、誰もが通らないとならない道だと思っていたからね。覚悟はしていたよ。」
全然気づかなかった…。そんな素振り見せなかったし、気づかなかった。
「話は聞いておいて良かったよ。こんなに家族想いの君だから、家族からさぞ大切にされているだろうな、と思っていて。きちんとしたくて、先手でいったんだ。大丈夫だった?」
さらっと言ってのける。
当然じゃない!
「すごーく、格好良かった!」
惚れ直したと言わんばかりの、満面の笑みで答えた。
彼も、その表情を見て嬉しそうだった。
ふと、母からの手紙を思い出し、軽く目を通そうと思って開いた。
母の達筆な字を見たら、急に胸が詰まった。
大した内容は書いていないハズなのに。
一般的な母親としてのコメントなのに。
「…何か書いてあった?」
その涙が喜びなのか、哀しみなのか、心配した彼が、私の様子を伺った。
心配してもうら涙では無かったので、
「いい事書いてあった。」
と、笑顔で答えた。
手紙には、文字の内容以外の、母の込められた気持ちや思い出が入っていた。
↧





