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第八章 不幸女子の過去  ~ そのさん ~

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彼と共に、実家に帰ると連絡をし、彼の家から離れた町にある、私の実家へ向かった。 結婚の報告と、びっくりさせてはいけないので、彼の事情も簡単に、事前に説明していた。 かなりの資産家ではあるが、彼はそれを気にして身分を明かしていなかった事も、私も今後、今の生活を変える気が無い事も、子供が出来る見込みはない事も。 家族の言いたい質問は大体予想できるが、家族も私の考えていることを予想しているようだ。 私が納得した上で決めた結婚で、解決している問題だからと理解してくれてか、それ以上については聞かれなかった。 久しぶりの実家は、やはりほっとした。 一緒に生活していると、色々問題が出てきたが、家族の存在は自分の支えになっている。 「おかえり。久しぶりだね。元気だった?」 と、何も特別な事は無いように、笑顔で母が迎えてくれた。 とりあえず、心配していた様子では無くて良かった。 「はじめまして。近藤です。」  と、私ですら緊張するのに、彼は落ち着いた様子で挨拶してくれた。 「はじめまして。この子から聞いてます。ほら、お父さん、紗己子が帰ってきたわよ。」  その様子に、彼と二人で顔を見合わせてほっとした。  家の中に入ると、大分頑張って片づけた形跡がある。 彼の存在も、お客様として、丁寧に扱ってもらえた。 雑な扱いをされずに済んで、一先ず安心。  父も、常日頃、婿が来たら威厳を見せたくてしょうがない様子ではあったが、きちんと対応してくれている。 まあ、彼の印象が良いからなんでしょうが。 「はじめまして。近藤将希と言います。」  と、彼が先に挨拶を始めた。 「はじめまして。まあ、疲れたでしょう、座りなさい…」  と、すすめた父に対して、 「まず、先に謝りたいことがあります。」  と、彼は椅子を避けて父の前に正座をした。  え?もう?  と、思い、すぐ彼の横に座った。 「お話は聞いていると思いますが、娘さんと結婚させて頂く事になりました。まず、こちらにご挨拶と、結婚の許しのお伺い立てるべきでしたが、遅くなってしまって、申し訳ございませんでした。」  と、頭を下げた。  その、あっぱれな姿に、居間に入ってきた母や姉も、家族一同見惚れっぱなし…。 さすが、大人の男!締める所は締める! こんな事をしようと、考えていたなんて…。 私も続いて頭を下げた。  …ちなみに、こういうきっちりした形式は、父が最も好む事…。何故、父の好みがわかったのだろう?  やりすぎても角が立つけど、何だが、とても雰囲気が好感触だった。 「いいよ、いいよ。もう頭を上げて。ほら、座って。」  と、場は和んだまま、一同着席した。 「…二人ともいい歳だし、自分たちで決められるだろう?親があれこれ口を挟む年齢でもないし。この子の選んだ人なら、間違い無いと信じています。」  父は、改まると敬語になる。  確かに、「信じて」くれているが、「間違いない」にプレッシャーを感じ続けこの年齢まで来てしまったのだが…とうとう、「間違いない」人が現れて、父も安心してこの決め台詞を言えているのだろうな。  …言わせられる人を連れてこられて、本当、に良かった。  二人はどこで出会ったとか(ちなみに、職場でという事になっている)式はいつにするとか、今後の予定は…など、彼の魅力に家族もはまっているようで、彼を和に入れて話が進んでいった。 受け入れてもらえて良かった。 でも、何故か私はこの光景を俯瞰で見ている。 まるで私の存在は消えているようだった。 そうね、私の話は後でもいくらでも出来るものね。今は、家族の新メンバーの話が中心だもの。 …家族との距離感が遠く感じられた。 頼られず寂しくもあったが、この家からもう解放されたのだと思うことにした。 我が家の挨拶も、小一時間程度で終わった。 「では、式の日は宜しくお願いします。今日は、ゆっくり出来なくて申し訳無いです。」 「いやいや、遠いから、気を付けて帰りなさい。」  みんな和やかに見送ってくれた。 立つときに母から手紙をもらった。 「素敵な人で良かったね。幸せにね。」  と、耳打ちされた。 「ありがとう。」  ふふ、と笑いあった。    帰りの彼の車の中。 「良かった。怒鳴られるか、殴られるか覚悟していたよ。」 「あ…ごめんね…そんなにプレッシャーになっていたとは…。私が変な話聞かせたから…。」  すると、彼はふっと笑った。 「違うよ。男なら、結婚する時、誰もが通らないとならない道だと思っていたからね。覚悟はしていたよ。」  全然気づかなかった…。そんな素振り見せなかったし、気づかなかった。 「話は聞いておいて良かったよ。こんなに家族想いの君だから、家族からさぞ大切にされているだろうな、と思っていて。きちんとしたくて、先手でいったんだ。大丈夫だった?」  さらっと言ってのける。 当然じゃない! 「すごーく、格好良かった!」  惚れ直したと言わんばかりの、満面の笑みで答えた。 彼も、その表情を見て嬉しそうだった。    ふと、母からの手紙を思い出し、軽く目を通そうと思って開いた。  母の達筆な字を見たら、急に胸が詰まった。  大した内容は書いていないハズなのに。  一般的な母親としてのコメントなのに。 「…何か書いてあった?」  その涙が喜びなのか、哀しみなのか、心配した彼が、私の様子を伺った。  心配してもうら涙では無かったので、 「いい事書いてあった。」  と、笑顔で答えた。   手紙には、文字の内容以外の、母の込められた気持ちや思い出が入っていた。

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