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もうじやのたわむれ 267

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「それはもう不要かと存じますので棄てて頂いて結構ですが、もし何なら私共の方でお預かりして廃棄いたしても宜しいですが?」 「ではお手数ですがそのようにお願いします。因みに訊きますが、これは私が霊に生まれ変わった後、何時か必ず私の手元に届くなんと云う事はないのでしょうか?」 「このパンフレットとリーフレットは、亡者様だけに限定してお渡ししている物ですので、霊になられた後は物的因縁が途切れて仕舞います。ですから後日お手元に届くと云う事はございません。その点、悪しからずご了承くださいませ。大変申しわけございませんが」  女性係員は眉根を上げて恐縮の目の表情をして見せるのでありました。 「いや別に貴方が謝る事はないですが、成程そう云う事だと了解しました。何やら余計な事を訊いたようで済みませんねえ」 「いえ、とんでもございません」  女性係員は恐縮の表情の儘でお辞儀した後、首をゆっくり何度か横にふって、拙生が詫び言を云う必要は何もないと云う意を表して見せるのでありました。 「さてこの後、私は前に審理を受けた審理室の方に行って、そこの前で名前を呼ばれるのを待っていればいいのですかな?」 「はい。後はこの確認用紙にサインを頂いて、それでチェックアウト手続きの方は総て完了ですので、そのようにお願いいたします。それからこれはお節介な事かも知れませんが、亡者様が先に審理をお受けになった部屋は三十五番審理室でございますので、出来ましたらその部屋の近くでお待ち頂ければと存じます。念のためご案内申し上げておきます」 「はいはい、態々親切なご教示を有難うございます」  拙生はそう云って傍らのペン立てにあるボールペンを取って、チェックアウト及び貸与品返却確認用紙に認めのサインをするのでありました。 「それからお手を煩わせるようで恐縮ですが、これは宿泊施設の各サービスや、施設の使いやすさ等のアンケートとなります。若し宜しければ審理までの待ち時間にご記入頂いて、審理室入口横にあるアンケート用紙回収箱にご投函頂ければ幸いに存じます。これは私共のお願いでして決して強制ではありませんので、投函するもしないも亡者様のご随意です」  女性係員はそう云いながら、拙生の前に遠慮がちにアンケート用紙と筆記のためのサインペンを差し出すのでありました。 「はいはい、判りました。待ち時間潰しには返って好都合ですな」  拙生は気安くそれを受け取るのでありました。 「サインペンは回収箱の横にペン立てがありますので、そこへお戻しください。それではこの宿泊施設のご利用を有難うございました。またのご利用をお待ちしておりません」  この、お待ちしておりません、のところで拙生はちゃんと小さくコケるのでありました。 「ま、兎に角、色々お世話になりました。お蔭で快適な一時を堪能する事が出来ました」  そう云って片手を上げた拙生に、女性係員は可憐な笑いを最後に送ってくれるのでありました。拙生はその笑顔で大いに良い心持ちになるのでありました。こんなに客あしらいの良いホテルは、本当に、娑婆にもそうざらにはないと思うのであります。 (続)

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