ど~も。ヴィトゲンシュタインです。 ブレンダ・ラルフ ルイス著の「写真でみる女性と戦争」を読破しました。 4月に出たばかりの興味深い342ページの一冊を紹介します。 このBlogでも「女性と戦争」というカテゴリーがあるだけに、 本書のタイトルと表紙を見ただけで、これはもう外せませんね。 また、「写真でみる・・」というタイトルだと、以前に 「写真で見る ヒトラー政権下の人びとと日常」という本も紹介していますが、 あぁ、これも同じ原書房でしたか・・。 第1章は「戦争準備と開戦」です。 「山本五十六提督はパールハーバー奇襲攻撃の立案者だったが・・」で始まる本文。 米国の女性は強い愛国心とともに行動した・・として、 1945年までに陸軍看護婦に5万7000人、陸軍婦人補助部隊(WAAC)に10万人が入隊と、 まるで「第二次大戦の連合軍婦人部隊」を思い起こさせる展開です。 しかしながら米国の世論調査では、女性が軍務に就くことには賛成でも、 自分の母親や姉、妹、妻、娘が軍務に就くことは容認できず、 兵士の手紙では、「入隊すれば離婚する」、 あるいは「縁切りする」という脅し文句も書かれます。 こうして入隊した女性への誹謗中傷は執拗に続き、伝統主義者は 「軍の女性は妻や母としての務めを果たしていない」と批判。 先輩格である英国の海軍婦人部隊(WRENS)の隊員も、 「欲求不満の同性愛者」、「軍服を着た色情狂」と罵られ続けるのでした。 写真は2ページに1~2枚。白黒写真もありますが、綺麗なカラー写真も多く、 また、写真ではない募集ポスターも個人的に好きなので悪くないですね。 そんなプロパガンダ・ポスターとして有名なのが「リベット工のロージー」です。 可愛らしい顔ながらも、捲り上げた袖に露わになった腕の筋肉と大きな拳、 顎をぐっと上げて肉体的な強さと意志の強さを感じさせる姿。 そして「わたしたちにはできる!(we can do it!)」という名言。 米国内の造船所などでは働き手を募集し、多くの女性たちがロージーのように リベット工、または溶接工として働くことになります。 なるほどねぇ。。建造と撃沈を争うデーニッツ目線で読むと、なんとも言えません。。 アラバマのレッドストーン兵器廠では「女性製造戦士」を配属し、 1944年には兵器製造ラインの50%以上が女性に・・。 数名の女性監督官が生まれますが、まだまだ黒人差別という問題も存在します。 ここまで100ページ、著者は英国女性のようですが、米国女性の話が中心で、 英国のランドガール(婦人農業部隊)が「木こり娘」と呼ばれていた話や、 ドイツではレニ・リーフェンシュタールが紹介される程度です。 第4章は個人的なお楽しみ「看護婦の役割」です。 赤十字看護婦が募集に応じて入隊する「陸軍看護部隊」の看護婦が 米軍に従属する看護婦となったようで、その数、5万名です。 彼女たちは航空機によって後送される負傷兵を速やかに治療するなど、 この戦争での新しい任務にも従事するのでした。 しかしわずか479名の「黒人看護婦」には、白人負傷兵の介護をすることは許されません。 一方、ドイツの看護婦さんはどうかというと、「恐ろしい計画に携わった者がいた」として、 10万人以上の身体障害者や知的障害者が殺された「安楽死計画」を取り上げ、 積極的に、またはやむを得ず協力した・・と紹介します。 ど~も、本書は枢軸国に対して悪意を感じますね。。 第5章は「軍で働く」です。 まずは1942年2月、ビルマの首都、ラングーンから撤退する英軍と それに同行する婦人補助部隊300人の話。 南西太平洋戦線では米軍の占領地であろうとも、抵抗する日本軍の兵士に 襲われる危険性があるため、現地の司令官は婦人部隊の派遣には難色を示します。 しかしそれでもやって来る婦人部隊員。外出の際には2名の男性兵士が護衛に・・。 ソ連の女性兵士ではリディア・リトヴァクにリュドミラ・パヴリチェンコの名も・・。 また、ドイツではハンナ・ライチュ、まぁ定番ですか。 英国の空軍婦人補助部隊の任務は様々ですが、パイロットとの無線通信もその中のひとつ。 特にドイツ語が堪能な隊員は、ドイツ夜間戦闘機の無線交信に割り込み、 味方を装って、ニセの情報や指示をドイツ軍パイロットに与えるのです。 第6章は「情報戦と女性諜報員」。早い話、「女スパイ」ですね。 英国の特殊作戦執行部(SOE)がヨーロッパ諸国へ送り込んだ女スパイは39名。 彼女たちはドイツ軍占領下でゲシュタポの目をくぐり抜けながら任務を遂行するわけですが、 フランス軍兵士だった夫を亡くしたヴィオレット・ザボーは、 隠れ家を取り囲んだゲシュタポと銃撃戦を繰り広げた挙句に逮捕され、 拷問を受けた後、ラーヴェンスブリュック強制収容所に送られ、1945年に処刑。 仲間に関する情報は決して口にしなかった・・と、1947年にジョージ6世から ジョージ・クロスを娘のタニアが受け取ったそうです。 この話は特に印象的ですが1958年(1957年?)に映画になっていました。 日本でも「スパイ戦線」という邦題で公開されているようです。 ご存知の方、いますか?? その他は、有名な「東京ローズ」に、過激なユーゴの女性パルチザンの写真では、 「女性もドイツ人を容赦なく殺害した」。 続いて第7章は「捕虜と囚人」です。 シンガポールの劣悪な環境のチャンギ刑務所。 数世紀にわたってアジア諸国を抑圧してきた英仏蘭の商人や農園経営者、 そしてその妻や子供らが日本軍に捕えられ、鞭打たれる番になります。 この刑務所の最初の所長は優しい人物で、子供にはお菓子を分けてあげることも・・。 しかし部下から反逆罪で告発されて死刑。。 その後は恐ろしい日々が続きます。 特に「朝鮮人の看守はひどく野蛮で・・」という話は、まるでナチスの収容所で、 ラトヴィア人やウクライナ人看守らが残酷だったのと同様な気がしましたね。 日本兵が女性を殺害し、強姦する姿を描いた米国のプロパガンダ・ポスターを掲載しながら、 1941年のクリスマスに香港を占領した日本兵が、3人の英国人看護婦を強姦した例も 挙げますが、基本的に日本人は「白人」を四流民族と見なしていたから、 彼女たちと肉体関係を持つことは日本民族の沽券に係わる・・、 また、伝統的に母親と子供を大切にする日本人は、子供を持つ女性を強姦しない・・、 などと書かれる一方、子供を持たない女性やアジア人女性を多数強姦し、 殺害することもあったとしています。朝鮮人をはじめとする女性が兵士の相手をする 「慰安所」についても触れていました。 最近、橋下徹市長が「従軍慰安婦」発言でいろいろと賑わし、 「河野談話」など、旧日本軍の過去についてはTVでも掘り下げていますが、 「米軍、英軍、フランス軍、ドイツ軍、旧ソ連軍、その他の軍においても・・」 という発言を聞くと、過去に読んだ「1945年・ベルリン解放の真実 戦争・強姦・子ども」、 「ナチズムと強制売春」、「パリ解放 1944-49」などを思い出しますね。 収容所といえばナチス・ドイツ・・。 「ブッヘンヴァルトの魔女」と呼ばれたイルゼ・コッホについて詳しく書かれていますが、 彼女の写真が無い代わりに、ベルゲン・ベルゼンの女性看守たちの裁判写真が・・。 中央で睨みを利かすのはイルマ・グレーゼですね。 やっぱり、ドイツは女性でも悪人しか登場しません。悪意を感じるなぁ。。 対独協力者として、見せしめに丸刈りにされたフランス女性の写真も 「レジスタンス組織は厳しく罰した」というキャプションのみ。。 彼女たちの立場について、もう少し言及しても良いのではないでしょうか。 後半の第8章は「ジャーナリスト」です。 1940年にヘミングウェイと結婚したマーサ・ゲルホーンといった女性ジャーナリストらの 戦地での活躍を写真と共に紹介しますが、 「米国社会に息苦しさを感じ、もっと自由で刺激的でスリルを求めて、 戦争が行われているヨーロッパへ渡った。そして多くの女性ジャーナリストが 戦地で活動するために結婚生活を犠牲にした」ということです。 正直言って、自分で好きでやってるんだから、結婚生活が破綻しようが、 離婚しようが、知ったことか!って感じですがね。 ヘミングウェイとマーサ・ゲルホーンの話も去年に米ドラマで製作されていました。 ちょうど6月22日にWOWOWで放送。「私が愛したヘミングウェイ」というタイトルです。 ゲルホーン役はニコール・キッドマン、ヘミングウェイはクライヴ・オーウェン・・。 う~ん。どうするかなぁ・・。 ヘミングウェイの小説は読んだことが無いんですが、「武器よさらば」や 「誰がために鐘は鳴る」、「老人と海」といった映画は良かったですからねぇ。。 第9章は「娯楽と慰安」。 緊張状態に置かれた兵士や民間人を楽しませるために、 映画俳優や歌手などが慰問活動を繰り広げます。 英国の国防義勇軍補助部隊(ATS)の女性によるダンス・バンド。 あ~、グレン・ミラーも慰問でヨーロッパ行って、死んでしまいました。 米国慰安協会の一員として精力的に活動したマレーネ・ディートリッヒは あの「リリー・マルレーン」の歌詞と共に大きく取り上げられます。 戦前に24本の映画に主演しながらパッとしなかったベティ・グレイブルは、 戦争が始まるとともに、ピンナップ・ガールとして大人気に・・。 兵士たちがロッカーやベッドの上に彼女のピンナップを貼ったのは、 彼女の性的な魅力だけでなく、懐かしい故郷や近所の娘、 母親のアップルパイを思い出させる雰囲気を持っていたからということです。 こうして最後の第10章「戦争が終わって」。 ヨーロッパ戦線の駐屯地でもあった英国では、 大らかで魅力的な米軍兵士と結婚して移住した英国人女性が7万人。 カナダ軍兵士と結婚したのが4万8000人。 戦後の日本での恋人の米軍兵士と過ごす日本女性の写真で終わります。 まぁ、本文の内容はこのように米国中心で、補足的に英国と 西側連合国の「女性と戦争」といった一冊でした。 個人的にはもうちょっとドイツと日本、ソ連なども欲しかったですし、 記述も女性的過ぎる気もしますが訳者さんも女性だし、しょうがないところでしょう。 逆に言えば、戦時下の米英の女性たちを知りたい女性にはうってつけかも知れません。
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