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『世界』2013年6月号──立憲主義の危機への警鐘

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『世界』2013年6月号「特集:『96条からの改憲」に抗する』

(岩波書店) 

 Twitterなど、有名無名を問わず、政治的なことに関して、自分の考えをどんどん述べるのがあたりまえの世の中になって、知識があってもなくても、裏付けがあってもなくても、学識があってもなくても、政治に首を突っ込んでいる人々が、ニュース記事を見ては、がやがやと、そのニュースを知ることに「使った」マスコミ批判を含めて、騒がしい。われこそは、国の行方をほんとうに心配している、われの意見に耳を傾けろ──!

 こうした人々はいったい何を根拠に、自分の主張を正しいと信じるのか? 多数の人々がそう言っているから? 圧倒的多数によって勝利した自民党がそう主張しているから? あるいは、自民党支持の学者の説明に頷けるから?
 そんななか、『世界』2013年6月号の特集『「96条からの改憲」に抗する』は、少なくともネット上で自説をがなりたてている人々より、多少はまともにものを考えられる人々に向けられている。

 なかでも、伊藤真「なぜ96条を変えてはいけないのか」は、憲法を血肉としている人の論文として、傾聴に値する。

 すなわち、立憲主義の危機である。立憲主義とは、ナポレオン帝政やナチスドイツに見られるような、「多数派」政治が行きすぎたとき、少数派の個人を守るようにできあがっている政治体制であると、伊藤は言う。そして、96条は、その立憲主義思想の「生命線」であると。

 「国民の多数派が熱狂的に戦争を支持した戦前の日本も同様だった。不正確な情報に踊らされ、ムードに流され、目先のことしか見えなくなり、冷静で正しい判断ができなくなる危険性が、私たちの社会にはいつも付いてまわる。
 それを避けるために、人間の弱さに着目して、あらかじめ多数意志に基づく行動に歯止めをかけることが必要であり、その仕組みこそが憲法なのである。多数決で決めるべきこともあるけれども、多数決で決めてはいけないこともある。多数決でも変えてはならない価値を前もって憲法の中に書き込み、多数決意思を反映した国家権力を制限する。これが立憲主義という法思想である」

 自民党の目指すところは、参院選で圧勝し、96条を改正し、憲法を簡単に改正できるようにし、自衛隊を軍隊とする。そうしてアメリカとの絆を強め、アメリカと同等の大国として世界の覇者となることである。
 しかし、伊藤は言う。自衛隊を国防軍にすれば、防衛費はさらに必要になり、戦争をも辞さないことになる。
 「戦争とは敵の兵士を殺すことであり、軍隊とは兵士を殺す組織である」
「そうなると日本は、殺人目的の組織を市民社会に抱えることになる。これは市民社会にとって脅威である。市民社会は命を尊び、個人の自主性・自律性を尊重するのに対して、軍は人を殺し、組織への絶対服従を求める。軍隊の新兵訓練では、兵士になるために人間の尊厳を否定する訓練を受ける。在日米軍の兵士が性暴力等の犯罪を起こすのはそこにも原因がある。国防軍ができれば、兵士による犯罪事件は日本全国に広がる可能性がある」

 ──そこで、橋下大阪市長の言う、「風俗サービスが必要」になるか。おそらく、そういう「措置」を取ろうとも、「人間の尊厳を否定する訓練を受けた」兵士は、犯罪を犯すだろう。しかも、今度は、「日本兵」が……ということになる。
 ネット上の、ジャーナリストの論考にも、米兵による犯罪はこんなに多い、橋下氏の訴えたかったことはそこに力点があるのではないか、という考えのものも見られる。伊藤氏のまっとうな論考からすれば、本末転倒も甚だしいだろう。


世界 2013年 06月号 [雑誌]

世界 2013年 06月号 [雑誌]

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2013/05/08
  • メディア: 雑誌





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