「そうねえ」 頑治さんはあんまり気乗りしないような云い草をするのでありました。 「じゃあ、浅草か上野をブラブラ散歩してから寄席見物とか?」 「それも何となく億劫だなあ」 「じゃあ、ずっとここに居ていちゃいちゃしてる?」 夕美さんは悪戯っぽい流し目をして頑治さんを見るのでありました。 「それも全く悪くないんだけど、幾らする事が無いからと云っても明日の日本を背負って立つべき健全な青少年がやるべき事柄じゃないかなあ、そう云うのは」 「じゃあ、健全な青少年は日曜日に朝寝した後、何をするのが正しいのかしら?」 「先ず、ビールを飲む」 「成程」 夕美さんは頷いてビールを一口飲むのでありました。「それから?」 「それから、今日やるべき事柄についてあれこれ議論をする」 「ふんふん」 夕美さんはまたビールの缶を傾けるのでありました。 「で、結局結論を得ない」 ここで頑治さんも一口煽るのでありました。「依って不本意ではあるけれど、ずっとここに居ていちゃいちゃしながら過ごす事になる」 「そうだ、東京都美術館に行ってみない?」 頑治さんの戯言とは全く関係無く夕美さんが急にそう提案するのでありました。 「東京都美術館?」 「そう。上野公園の」 「そこで何かやっているのかい?」 「確か書道展をやっている筈よ」 夕美さんはそう云って一つ頷くのでありました。その頷き様に何となく確然とした趣きがあって、今急に思い付いた東京都美術館行きを夕美さんはもう決しているようだと頑治さんは推察するのでありました。しかし夕美さんの趣味に書道があったとは今の今まで頑治さんは知らなかったのでありました。一体全体何故の書道展行きでありましょうや。 「何でまたそんなものに?」 「知り合いの人が出展しているのよ」 「知り合いって?」 「考古学教室の同級生。と云ってももう六十歳過ぎの人だけど」 「六十歳過ぎの同級生?」 「社会人枠で入ってきた人なのよ。ウチの大学で考古学を専攻していて、大学を出てからはずうっと高校の社会科の先生をしていたんだけど、定年になって一念発起して考古学専攻の大学院生になったらしいの。その人の長年の趣味が書道で、何とか云う書道の団体の会員さんで、そこの年に一回の書道展を東京都美術館で今やっているのよ」 (続)
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