幼い頃奇妙な蛾に襲われて寝台から転落し、片腕が不自由な体に育った領主の息子メカイル。敵対する一族の捕虜を殺す儀式に向かうも、腹違いの弟の仕掛けた罠が思わぬ結果をもたらすことに…というところまでがほんの導入部です。この先は死が生に、聖が邪に、木が人に、男が女にくるくる生まれ変わる幻惑的な物語が展開し、読者は登場人物と共に目眩の渦に巻き込まれてゆきます。
作中の時間の流れは自由に前後に飛ぶわ、登場人物の名前や立場はめまぐるしく変わるわで一見難解そうなのですが、ストーリー自体は一つの流れでずっと進んでいるので実際にはそれほど読みづらくはありません。気になるところで他の場面に切り替わって場面がぶつ切りになるストレスとは無縁でした。
ただ全編を読み終えて見えてくるいくつかのテーマを考えますと、やはりどなんたにもおすすめという小説ではないと思います、はい。わたくしはフレーザー『金枝篇』に出てくる森の世界ですとか、手塚治虫の『火の鳥 ・異形編』のぐるぐる感を連想しました。この辺りに引かれた方、よろしければお試し下さい。
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