内容(「BOOK」データベースより)僕が最近、会う人会う人に「痩せた?」と言われるようになったお話は、10月に書いた記事「10kmロードレースを走り切った」(10月23日付)で書かせてもらった。痩せること、メタボ克服は必ずしも目標とはせず、ロードレース参加を目標として定め、一緒に出場する仲間に迷惑をかけないような走りをしたいと考えて、普段の走り込みにそれなりに一生懸命取り組んだ結果が、痩せることに繋がっているのである。 そのような時期に、なんとも興味深いタイトルの本と巡りあった。著者の作品を10月のロードレースの行きと帰りに列車の車内で初めて読んだのがきっかけで、著者が元銀行員であったという経歴にも興味を持ち、次に読めそうな作品を物色しているうちに、こんなタイトルのエッセイ集を出しておられるのを知った。 池井戸潤の場合と違い、江上剛は高杉良の『金融腐蝕列島』のモデルともなった有名なバンカーだった。第一勧業銀行時代、そして、みずほ銀行退職後に社外取締役になった日本振興銀行の破綻処理でも指揮を取り、マスコミに度々登場した人である。長時間の仕事には追われ、ストレスのたまる毎日だったに違いない。運動不足で体重も増えていき、僕の最盛期(?)と同様、90㎏に届くか届かないかといったところまで体重は増えていたらしい。 そこから、近所のお知り合いのお誘いもあって、毎週3回、午前5時からスタートする10~15kmの合同ランに参加するようになり、走り始めてからわずか2年のうちに、ハーフマラソン出場を皮切りに、つくば、千歳、東京、つくば、ホノルルと、次々とフルマラソンに挑戦していくのである。 著者の走り始めた年齢、走り始めた頃の体型、走力などが僕と近いので、興味深い内容だった。走り始めてからの練習方法、冗長な練習を長続きさせる工夫など、参考になることも多かった。よくランナー向け雑誌などで取り上げられるインターバル練習の効能も、よくわかる形で書かれていた。基本はエッセイなのだが、一般市民ランナーの目線で書かれた、とっつきやすいランニング解説書にもなっていると思う。 長年走ってなくて体重が相当ある人が、いきなり10kmランの合同練習についていけるのかどうかはよくわからない。僕自身は著者と同じ体重だった頃、100メートルも走れば息切れがしたものだが、そういう、走り始めた頃の悪戦苦闘については本書では実はあまり書かれていない。僕は10kmを続けて走れるようになるまでに相当な時間を要したが、著者はいきなり10kmだから…。自ずと、目標とするレースも違ってくる。僕は走り始めていきなりフルマラソンを目標に定めることなどとてもできない。 そもそも、僕は自宅近辺で合同ランを主宰しているようなコーチを誰も知らず、1人で練習を積んでいるわけだし、ましてや毎週3日、午前5時に走り出すというような定期性もない。僕は夜、帰宅後に走ることが多いし、仕事が忙しくて帰宅時間も定まらないので、毎日とか2日に1回とか、定期的に走り続けるというわけにもいかない。著者の練習方法は1つの例に過ぎず、僕にはとうてい真似できるものではない。 それでも、90kg前後あった体重を走ることによって70kg台前半まで落とした著者の経験は、多くのメタボオヤジの心をくすぐるに違いない。要は単純なことなのだ。毎日ちゃんと摂取する以上のカロリーを消費すれば、自ずと体重は減っていくのである。著者の説明によると、現在体重75kg前後の僕であれば、1回10km走ることで、750キロカロリーの脂肪燃焼があるらしい。ファミレスで食べるスパゲティ1食分ぐらいだろう。そういうことを考えるとウェートコントロールはしやすい。 確かに僕の運動量は著者に比べたら全然少ないが、それでも本書を読んでいたら、いずれフルマラソンにも挑戦してみたいと思うようになってきた。当面の目標は、来年の早いうちにハーフマラソンに出て完走することなので、志はまだまだ著者の足元にも及ばない。ただ、僕が今から20年前、かつて市民ランナーをやっていた頃のハーフの記録は1時間45分前後だったが、今はそこまでの走力は既に回復してきているように感じられる。 今週前半、広島に出張する機会があった。当然ながらランニング用のウエアとシューズは持って行き、寒さが厳しい早朝に1時間ランを敢行し、仕事を終えて帰京した後、その日のうちに自宅周辺でさらに1時間のジョギングを行なった。合計すると22km以上走ったことになるが、1日のうちにこれだけの距離を走ったのは久しぶりで、これならハーフマラソンも挑戦できるという気になれた。 半分自分の身の上話になってしまったが、平平凡凡な一般市民のランナーには本書はお勧めする。
日本振興銀行の経営破綻による混乱のさなか、代表執行役社長となった作家は、ふとしたきっかけで走り始める。五十代半ばを過ぎ、肉体は典型的メタボ、ストレス続きで精神的にもどん底だったが、走ることであらゆることが変わって行った。仲間との早朝練習、散々だった初マラソンから念願のサブフォー達成、そしてさらなる自分への挑戦―震災を挟んで二年、マラソンによる予想外の変化をつづるランニング・エッセイ。
《10月に出た10kmロードレースでの雄(?)姿。今はさらにもう少し痩せています》