「高橋和巳の思い出」という同じ作者の本は、昔読んだことがある。最近、この本が出ていたことを知って、「高橋和巳の思い出」にないことも、書かれているのだったら読みたい、と思って読んだ。
「高橋和巳の思い出」の中で正直私が覚えているのは、高橋たか子が病気の夫を看護する様が、意外にも普通の妻の姿だったことと、高橋和巳の母親が天理教の信者で、病院でお祈りだかお経だかをやっていたということだけだ。この高橋和巳の没後25年後に書かれた本では、割と率直に、高橋和巳と結婚してから、彼女が外の社会とどういう関係にあり、どういう選択をしたのかが、わかる。それでは、高橋和巳という人については、というと、妻の(美人で京大出でおしゃれで実務的能力も高い、写真だけ見てもいわゆる「いい女」である)フラストレーションにも全く気がつかず、現在では価値の見出せない学生運動に巻き込まれていく愚かな面もあるのだが、それでも、高橋たか子は二人の結婚を夢と夢の結婚、というのである。
この、作品だけ読むと全くタイプの違う二人の作家(私の印象では、高橋たか子の作品は悪魔的であり、一方高橋和巳の作品は生真面目である)が一体どんな結婚をしたのかというのは、非常に興味をそそられる。この本を読んでもまだそれはよくわからないけど、高橋和巳の友人が「あなたはずっと高橋の理想の女性でした」という手紙を送ったというくだりがあり、それはそうなんだろうなあ、と思った。