(あらすじ)
高校最後の夏休み。「ある理由」から帰省せずに女子寮に残った七瀬は「死んだ女生徒の幽霊」の噂を耳にする。一方同じ居残り組の双子・日向と美夜子は男性教師・神崎が女性を撲殺する瞬間を目撃。狂気に満ちた神崎に追い詰められる少女たち。そのとき死んだ女生徒の親友と名乗るあかりが寮に現れーー。叙情的かつスリリングな、青春群像ミステリ。
感想は追記にて。
(感想)
個人的に注目している作家である、彩坂美月さんの作品。本作は、デビュー作である『未成年儀式』を大幅に改稿、改題した作品です。『未成年儀式』は手に入れたものの読んでなかった私としては、意外な形で作者のデビュー作に触れることになりました。
ミステリ作家として注目されているらしい作者。ですが、本作ではミステリ要素は若干あるもののそれほど強く感じませんでした。舞台から「パニックホラー」という印象も受けますが、それよりも強く感じるのは、青春群像劇でした。
殺人鬼の襲撃。大地震により断たれるライフライン。この舞台はあくまでも現実なのですが、非日常的なものが二つも被さることにより、これがあたかも非日常の世界のような印象を受けました。そのことで、7人の女子高生の、うちに隠された暗い気持ちや隠してきた秘密が曝かれていくことになります。
この過程は、内容が内容だけに重いですし、気持ちの良いものではありませんでした。ただ、この非日常の世界から脱出しようとする過程にあわせて、閉ざされていた少女たちの心が救われていく過程は、なかなかに見事で面白かったです。自分の置かれた状況と、自分の心の状況のリンクも良いですね。
有栖川有栖さんによる解説によれば、作者は「面白いエンターテイメント小説」を書きたいと言っているようですが、このデビュー作がまさに、面白いエンターテイメント作品でした。それまでの展開を爽快にしてくれる、鮮やかで爽やかなラストは、デビュー作からだったのか、というのも一つの発見でした。これがこの作者の作品のいちばんの魅力のような気がします。物語が暗い彩りを帯びていた分、そこから抜けたときに感じる鮮やかな光。私が初めて読んだ作者の作品である『夏の王国で目覚めない』で感じた強い光を、本作でも感じる事ができました。
大幅に改稿された、ということで、これまで作者の作品に感じていた「物足りなさ」のようなものは感じなかったのは、よかったです。果たしてこれからどんな作品を発表してくれるか。楽しみに待ちたいです。