記憶の奥から現れる彼の面ざしは蒼白い月明かりの中にうかぶようにひんやりとしずまっていた 女子大の寮のルームメイトの佳子から級友が母校の女子大の学長になったとの知らせを受けた。そのお祝いの相談をするためにふたりは再会した。そのときに昔付き合っていた男の話が出た。「江上謙二郎さん、癌で入院している」。 彼とは縁が切れて40年以上会っていなかった。知り合ったのは女子大に入学した4月で彼は工大の学生だった。ふたりを引き合わせたのは佳子で江上と同郷だった。江上とは彼が家庭教師のアルバイトの世話を紹介してくれて親しくなった。知り合った年の秋に肉体関係を持ったが1年目を過ぎた年の暮れには終わった。
過ぎた時と友とのつながり、月の光の中に見えてくるさまざまな生のかたち。歳をとるとともに人生は足早に過ぎていく、昔の男話題が出たとしても遠い幻で終わる。今が一番ということです。