「えっ、私の執念ですか。 そう言われると、ちょっと照れちゃうな。 でも、実はそうなんです、なあーんちゃって、アッハッハハハ」
唐沢は、そう言って頭をかいた。
「おい、唐沢、調子に乗んなよ。 新婚で身重の奥さん、ほっぽらかして、新幹線に乗り込んで、東京まで行ったんだからな。 でも、奥さん、こいつの、そんなところが、好きなんだそうですね」
毛利は唐沢の妻、美香に向かって言った。
「えっ、この人、そんなことまで、ぺらぺらと」
美香は、隣の唐沢を睨んだ。
「美香さん、いいじゃありませんか、ほんとのことなんでしょう。 それに、唐沢さんみたいな方がいらっしゃるから、この国の治安は守られているんだと思いますよ」
杏子がそう言うと、美香は顔を赤くした。 夫が褒められたのが嬉しいのか、その表情は緩んでいた。
「そうでんがな。 唐沢さんの奥さん、唐沢はんには、ほんまに御世話になりました。 ええデカ魂、持ってはりまっせ、お宅の御主人は。 ほんま、ええデカや、ええデカや」
桜井が念を押すように言った。
「ところで、マスターの吉本辰夫ですけど、福本洋平との間に、何か、確執があったらしいですね」
佑太が言った。
「ええ、それは、吉本辰夫の母親から訊き出したことなんですが、辰夫は小さいころから何度も、福本一郎に連れられて福本邸を訪れていたそうなんですよ。 その時、福本洋平が吉本辰夫の母親のことを、親父をたらしこんだひどい女だ、財産が目当てに違いないだのと、辰夫の前で口汚なくののしっていたそうなんです。 それに、同じ世代の洋平の息子や娘も、辰夫には冷たかったようですよ。 福本一郎がいない場所では、辰夫は彼らに執拗にいびられてたそうですから。 それで恨みをつのらせていたのかもしれません」
毛利は、福本洋平の家族と辰夫の確執について語った。
「そうでしたか。 そういう背景があったんですね」
佑太は、頷きながら言った。
「私は、それが、沢口絵里香殺害にもつながったんだと思っています」
毛利は、自信ありげに言った。
「安藤先生、先生は、神仙苑で、吉本辰夫の死を聞いて、なんで彼がマスターだと思われたんですか? 私は、それが不思議だったんですよ」
唐沢が、佑太に疑問をぶつけた。
「えっ、それは……言ったじゃないですか、あの時、ただ勘が閃いただけですよ」
佑太は、そう答えるしかなかった。
「そうでっか、勘ですか? 先生、もしかして……超能力でも持ってはるんやないですか?」
今度は、桜井が、勘繰るような言い方をした。
続く ⇒ http://shiratoriksecretroom.blog.so-net.ne.jp/2013-11-16-1
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