飛雄馬、インドの星になれ!―インド版アニメ『巨人の星』誕生秘話
- 作者: 古賀 義章
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2013/01/29
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
内容紹介インド版『巨人の星』の制作構想を初めて聞いた時、僕は狙いどころが良くてこれは相当面白いかもしれないと思った。再放送も含めて『巨人の星』を僕らが何度もテレビで見ていた1960年代から70年代の日本というのは今の行け行けどんどんのインドと近いし、クリケットは元々野球のルーツだったわけだから。それ以上に、「消える魔球(大リーグボール2号」や「バットを避ける魔球(大リーグボール3号)」はクリケットとの親和性も高くて、描けたらバットマンはきりきり舞いしそうだと、想像するだけで楽しくなった。 食べ物を大事にするインドで、星一徹の有名な「ちゃぶ台返し」はどう描かれるのか、皆が皆お金持ちになることを目指してガツガツしているインドの中上流社会で、息子にスポーツの英才教育を施すやり方がどれくらい受け入れられるのかも興味津々だ。 2012年12月のクリスマス直前に放送がはじまった噂の『スーラジ・ザ・ライジングスター』、その誕生秘話が既に本になっている。しかも初刷発行は2013年1月ということなので、著者はアニメ制作と並行してこの本の原稿を執筆されていた筈で、脱稿から1ヵ月弱で発刊に漕ぎ着けたその早さには恐れ入る。2クール26話で「アグニ・ボール」と呼ばれる大リーグボール1号までしかカバーされていない『ライジングスター』の続編制作に向けて、スポンサー獲得の材料とするための本であろうと思われる。 しかも、早かろう悪かろうではなく、読んでいてそれなりに面白かった。 『巨人の星』のインド版リメークが成り立つのか、どこでどう苦労したのか、興味深く読んだ。主人公スーラジのモデルがアーミル・カーンであることや、ライバル花形満に相当するヴィクラムは花形のように少年時代からスポーツカーを乗り回したりしないとか(インドでは誰かに運転させる)、なるほどと思わせられるところは多かった。 一方、クリケットのルールを多少知っているだけに、ちょっと気になる点もあった。クリケットのボウラーは1オーバー(6球)で交替していくので、スーラジ1人で相手の打者全員をアウトにすることはできないと考えた方がよい。通常20オーバー(120球)の試合形式なら4人程度のボウラーでローテーションを組む。1人のスター・ボウラーだけをどうやったらフィーチャーできるんだろうか。 また、番組では「魔送球」も登場するようだが、普通に考えればバッツマンの足を止めるよりも先にウィケットにボールを当てればアウトにできる話なので(これは野球でも同じだ)、それがインドに視聴者に理解されるのか不思議でならない。 本書を読み終わっても、そんなややマニアックな疑問はまだ解消されずに残っているが、まあこればっかりは番組を1クール通しで見てみないとわからないので、今後の楽しみにとっておきたい。僕の最大の関心は大リーグボール2号、3号が今後どう描かれるかというところにあるので、第1クールの『ライジングスター』がインドの視聴者に受け入れられて、続編の話が順調に進んでいくことを願ってやまない。 伴宙太にあたるパプーとの出会いを描いた回の放送はYouTubeで見ることができる。インドに住んでいる頃に見たインドのアニメでは普通だと思って気にも留めなかったが、今回日本で見てみると登場するインド人の顔色が悪いのは少し気になった(笑)。
2012年12月23日より、『巨人の星』のリメイク版アニメ『SURAJ The Rising Star』がインドにて放映開始される(毎週日曜ゴールデンタイム)。野球漫画の王道、そして不朽の名作とはいえ、野球が盛んではないインド人に受け入れられるために選んだ奇手は、主人公をクリケット選手にすること。高度経済成長にあった『巨人の星』時代の日本と極めて似ている現代のインド社会、売り込みの交渉、現地製作現場との激しい議論を続けた日々、困難を極めたスポンサー交渉、そして様々な人たちとの出会い・・・・・・。講談社のプロデューサーが語る、インドへのアニメ売り込みを決意した日から、第1話放映実現までの物語