<裏表紙あらすじ> いつものバーでいつものように酒を呑んでいた〈俺〉は、コンドウキョウコを名乗る女から電話で奇妙な依頼を受けた。ある場所に伝言を届け、相手の反応を観察して欲しいらしい。一抹の不安を感じながらも任務を果した帰り道、危うく殺されそうになった〈俺〉は、依頼人と同姓同名の女性が、地上げにまつわる放火事件で殺されていたことを知る--ススキノの街を酔いどれ探偵が全力疾走する新感覚ハードボイルド第2弾! ここから7月に読んだ本の感想です。 ススキノ探偵シリーズの第1作「探偵はバーにいる」 (ハヤカワ文庫JA)を読んだのは、果たしていつだったのか思い出せないくらい昔のことですが、最近映画化されたので、久しぶりに第2作のこの「バーにかかってきた電話」 を手に取りました。 見事に「探偵はバーにいる」 の内容を覚えていなかったのですが、あんまり感心しなかったような... で、今回の「バーにかかってきた電話」 ですが、結論から言うと、これまたあまり感心しませんでした。 まず、オープニングにつまずきました。 正体不明の女からの電話、これはミステリらしくていいです。 でも、通帳を「毎日記帳するくらいの心がけがあってもいいんじゃないですか?」というのは、理解不能です。 それにつづけて「俺たちの作るマリファナは結構品質が高い」という記述にぶつかって、ちょっと考え込んでしまいました。 主人公の〈俺〉ってこういう人物でしたか... 軽くて、いい加減、というのは構いません。そういう設定、結構好きです。 また犯罪者が主人公というのもミステリではよくあることで構いませんが、その犯罪が麻薬というのはちょっといただけない。きわめて共感しにくい。マリファナはたばこよりずっとましだ、とかいう人もいますけどねぇ。 でも5ページ目で投げ出すのもなんなのでちょっとこの点は目を瞑るとして、読み進めることにしました。 ミステリとしての要となる事件は、あらすじに「新感覚ハードボイルド」とありますが、きわめてクラシカルな正統派ハードボイルド、でした。謎の依頼人の正体も、事件の黒幕の正体も、右翼だかその筋の団体が出てくるところも、そのまんま定石通り。新しいところはありません。 定石通りのハードボイルドというのは、それはそれで味わい深いものですが、主人公のキャラクターが味わいを邪魔してしまっています。二日酔いの朝に萩原朔太郎を引用するところ(「泥酔の翌朝に於けるしらじらしい悔恨は、病んで舌をたれた犬のやうで、魂の最も痛々しいところに噛みついてくる。」)とか、いい狙い目だと思うんですけれど、残念です。 マリファナ作りという属性がなくても、この主人公、このストーリーは成立するので(第1作で、それなりの必然性が書かれているという可能性もあり得ますが、大麻栽培を続けていく必要性は考えにくいですね...)、その設定を外してさえもらえれば、印象はずいぶん変わったように思います。 狭量で申し訳ないですが、どうも乗り切れなかった1冊でした。
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