矢吹明菜は御年30
そして、男と職を同時になくした
山あり谷ありの人生の谷底にいた
舞子駅で電車を降りて、海沿いの公園に出て、砂浜を歩いた。
両耳にイヤホンをしている老人に声をかけ「何聴いているんですか?」と
聞いた。
老人はラフマニノフのピアノ協奏曲第三番を聴いていた。
ふたりは自己紹介をした。老人は81歳の白石麟太郎と名乗った。
老人は明菜が失業中であることを知り、アルバイトをしないかと聞いた。
老人は「京都に一人、やっかいな男がいる。そいつを神戸に連れて来たら
成功報酬を出す」と言った。
やっかいな男は一宮拓斗という36歳のかつて世界をまたにかけて活躍した
マエストロだった。
明菜は神戸のアマチュア楽団のマネージャーだと名乗り楽団の結成10周年
を記念して指導を戴きたい旨を告げた。
翌日、ふたりはオルケストラ神戸の会館に到着した。
拓斗は音楽監督の依頼を断ったが練習場に連れていかれ指揮を行い、歓迎会
に招待されてしまった。
明菜は楽団の職員に採用された。
明菜にアルバイトを依頼した老人は大手飲料メーカーの創業者で楽団の
理事長だった。
楽団は会計担当に金を持ち逃げされ経営の実態は火の車だった。
楽団の定期公演が12月20日にクリスマス公演として計画されていた。
音楽ホール探しから明菜の仕事は始まった。
明菜は宿なしだったが震度2でも全壊しそうな木造家屋に家賃タダで住むことに
なった。拓斗も逃げないようにこの家屋の一室に住むことになった。
定期公演のプログラムを決定した。
広告費を捻出できないため新聞・通信社に一宮拓斗復活の記事掲載を依頼した。
そんなとき、白石理事長の入院が判明し半年前に胃がんが見つかり、肺へ転移
していることを知らされた。
白石は拓斗の祖父だった。
祖父は24歳のとき、大阪のホールに客として行って、そのときピアニストをして
いた祖母と知り合い、そのときの曲がラフマニノフのピアノ協奏曲第三番だった。
そして、商売が成功したらオーケストラをつくると約束し結婚した。
祖父は一姫二太郎をもうけ、拓斗は長女のこどもだった。
祖父が楽団をつくる前に祖母が病気で亡くなり、祖父(白石理事長)は、
オルケストラ神戸をつくり、守れなかった約束を拓斗に託した。
果たして拓斗は祖父の願いを実現できるのか
世捨て人のか弱き男とすべてを失った三十路女がひとつの目的を達成するという
痛快な物語。
物書きは、登場人物が閃くとこんなにも楽しい物語を創造してつくれるんだ。
本屋大賞候補の作家の作品を読もうとして借りた本でしたがおもしろかった。
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読書を楽しむ「塩田武士 女神のタクト」
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