「先生、この娘(こ)でしたか?」 「いいえ、この部屋に来たのは、もっと若い……」 「もっと、若い、ですか? さすがですね。 ……鈴木さん、さあ、入ってください」 毛利は、ドアに向かって声をかけると、そこから、別な女が顔を出した。 髪は赤く、顔にはにきびのあとが目立つ、佑太が地縛記憶で見た女である。 「この人です。 間違いありません」 「そのようですね。 私も確認しました。 失礼とは思いましたが……ちょっと、試させていただきました。 何しろ疑り深い性分で、誠に申し訳ありません」 毛利は、てれ笑いをしながら、ペコリと頭を下げた。 「いえ、刑事さんですから、そのくらいなくては……で、鈴木さん、貴方は、被害者二人に、面会人があることを伝えに来ましたよね」 佑太は、鈴木という若い女に訊いた。 「ええ、そうです」 女は短く答え、佑太の次の質問を待った。 「どんな方でした? 面会に来たのは」 「若い女の方でした。 赤いかつら、黒いサングラス、服は妊婦服みたいで、化粧もこゆうて」 「赤いかつら、黒いサングラスで、妊婦服着た、化粧の濃い、若い女、ですか?」 佑太は、女の言葉を復唱した。 「ええ」 「では、その面会人が貴方の前に現れたときのこと、少し、詳しく話してくれませんか?」 会いにきた人物のことと、この部屋を出られてから、外で何があったのかを、かいつまんで、教えていただけませんか?」 佑太の問いに、女は、少し間を置いた。 「うち、芝居小屋の入り口で、田中さんとお客さんのお相手しとったんです。 そしたら、映画村の入り口の方から来はったんです。 すぐわかるような赤いかつらを被って、目もよう見えんような黒いサングラスかけて、服はほんま妊婦服みたいで、化粧はひどうこゆうて。 うち、最初は、映画村のスタッフの方かと思いましたもん」 「田中さんというと……?」 「その人です」 鈴木は、最初に毛利が連れて来た女を指差した。 差された女は頷くと、訊かれもしないのに、鈴木の話を補足するように、話を切り出した。 「はい、私が田中です。 面会に来られたのは……今、鈴木が申しましたような、女性でした。 けったいな人やな、最初の印象はそうでした。 その人、入ってくるなり、山下昇さんと野垣良子さんに用があるから、会わせてくれと言わはったんです。 私は、今は幕間ですが、時間がとれるかどうか分かりません、とやんわりとお断りしたんです。 役者さんも、ひと息ついてるときですしね。 そしたら……『正面橋で拝見しました』 そう言えばお会いになるでしょうって、なんや気になるようなこと言わはるもんで、鈴木に、それを伝えに行ってもろうたんです。 ところがです、私がちょっと目を離したら、いつのまにか……」 「いなくなった、ということですね」 佑太が言葉をつないだ。 「そうです。 私、きつねか、たぬきに化かされたようで、ほんまに……」 田中は、困惑げな顔になった。 続く
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