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地縛記憶2: 京都、地脈の乱れ(第39回)

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 「脅迫にでも来たのかと思ったけど……顔も見ないで姿消すなんて、ふざけた女だな」  椅子に座るなり、男が言った。 「そうね。 でもさ、なんか、魂胆あるんじゃないの」  女は首をかしげた。 「そうかな。 待ってるうちに、怖くなってさ、逃げ出したんじゃないのか?」 「そうかも、だけど……気持ち悪いじゃん。 あの二人以外に、あのこと、知ってる人間がいるってことでしょう。 もしかして、あの時、どっかから誰かに、見られていたってこと?」 「かもな。 だけど、心配すんな。 脅してくる奴がいたら、始末するだけさ、俺にまかせろ。 さっ、休憩もそろそろ終わりだぞ。 そうだ、さっきは、お茶を……」  男が飲み残していた茶碗を手に取ると、女も続いた。 二人は、一気に茶を飲んだ。 「お茶の味が、ちょっと……変だ……」  男は空になった茶碗の底を見ながら呟いた。 が、まもなくその顔がけわしくなり、苦しみだした。 女も苦悶の表情になっている。 だが、それは長くは続かず、二人とも音を立てて床に倒れ込んだ。   それに気づいて、周りの者が騒ぎ出した。 何人かが倒れた二人に近づき、息がないのに気づいた男のスタッフが叫んだ。 「救急車だ、早く呼べ!」  その声が響き渡ると、部屋の中の光景は霞んで行き、再び毛利と唐沢の姿が戻っていた。  佑太は、フーッと息を吐いた。 「どうでした?」  杏子が訊いた。 「事件の全貌とはいかないけど……だいたいのことは分かったよ」  佑太は答えた。 佑太を見守っていた毛利は何が起きたのか分からず、怪訝な顔である。 それを見た唐沢が、横から顔を出して訊いた。 「何か、お分かりになりましたか?」 「ええ、なんとか。 被害者は、三十前後の精悍な顔の男で左目の脇にほくろがありますね。 女の方は、二十代半ばで髪は後ろで束ねて、唇は薄くあごが尖ったきつい顔をしています。 如何です? 毛利警部」  佑太は毛利の顔を見た。 「その通りです。 先生は、彼らの顔をご存じないはずですよね。 それで、よくお分かりに……」  毛利は驚きのためか、言葉が途切れた。 「それから、被害者二人は、やかんのお茶を飲んでますが、他の役者さんも同じお茶を飲んでいますね。 茶碗も同じかごにあったものです。 ですから、毒物はやかんには入ってなかった。 毒物は外から持ち込まれ、死んだ二人の飲みかけの茶碗に入れられた。 そういうことだと思います」  佑太は、よどみなく、言葉をつづけた。 「毒物は、外から持ち込まれたと言われましたが、誰がどうやって持ち込んで、茶碗に入れたと言われるのですか? ここには十人以上の役者と関係者がいたんですよ。 外部から入り込んで、そんな大胆なことができますか? それとも、ここにいた役者の中に、一度、外へ出て、毒物を持ちこんだものがいるとでも?」  毛利の顔は紅潮していた                                続く


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