全くもって想定外。
そもそもタイトルだけで相当の嫌悪感を感じる本。
それは、挫折を味わった人間だからこそ、抱く感情だったのかも知れません。
でもその感情って言うものは不思議なもので、
何かのタイミングがバッチリ合ってしまったのでしょう。
表紙を見た瞬間、読んでみたくなったのです。
社員に対して公にクビを宣告できない日本の企業を相手にした
架空のリストラ請負会社に勤める若き男、村上真介が主人公のこの小説。
敢えてヒール役として世の中を生き抜く者の視点はどんなものなのか。
淡白ながらもアクが強過ぎるタイトルを付けた理由、
そこに込められた作者の意図を知りたくなったというのが、手に取った理由でした。
どれだけ冷酷非道な内容で来るかと思っていました。
ところがページをめくってみると、もの凄く血の通った文章ではないですか。
確かに描写は異常なほどリアルで生々しいですが、
主人公のキャラクターそのままにストーリ展開がとても軽快なので、
当初抱いていた嫌悪感はすっかり消え失せました。
会社人としての表情と本当の自分自身との葛藤、
真介と交差していく人々それぞれの描写も、軽快な言葉選びで決して重くなっていません。
作者垣根涼介氏のデビュー作となった作品が冒険物であったことも、
この文章を読むと「なるほど」とうなずけます。
社会派の内容であるのに、単純に面白い。
どんどん読み進めていくうちに、途中から「あれ?」と思い始めました。
この内容、タイトルと全く逆じゃないのか? って。
逆境に立ち向かっている世の多くの社会人に対する力強い応援が、
ここには込められているんじゃないのかって。
真介は世の不条理を引き受けることを仕事としました。
最初こそ流れのままだったのでしょうが、この物語の中では既に自らの役割に徹しています。
そして一見冷徹な態度で、そして結果としての成果もまた冷徹ながら、
彼はリストラ候補となる人物の本質を見抜き、
その相手が明日、そして未来への希望に繋がるための行動を惜しまないのです。
それは、彼がこの仕事を始めることになった理由にも繋がるのですが。
そして、他の登場人物にことごとく「軽薄」と言われる彼の行動や言動もまた、
それが理由だったりするのです。
この作品に登場する誰もが人間臭く、心が純粋であればあるほど迷い苦しむのですが、
誰よりも純粋で心優しいのは、実はこの真介なのではと思えてしまいます。
もう一人の主人公とも言えるキャリアウーマン、芹沢陽子が登場します。
読んでいてとにかく笑えました。
なんか考え方がボクと似過ぎていたので。
すると彼女に対する真介の心の言葉に、本気で言葉を失いました。
「彼女の目に映るこの世の中はモノトーンの世界などではない
怒りにしろ、悲しさにしろ、楽しさにしろ、常にその時々の心の彩りを反映している」
・・・そうなのかも知れません。多分ボクも。
ボクはある時期、全てのものがモノトーンになりました。
目に見えるものだけでなく、五感全てに色彩なんて一切なくなりました。
本当に死んだも同然の日々でした。
だからこそ、この物語を読んだことで、
色彩を取り戻した今の生き方を「よく頑張ったな」と言ってもらえたような気がしました。
完全にのめり込んでしまった理由には、その思いがあります。
その他にもあらゆる部分に、
ボク自身が見抜かれていると思わされた内容がたくさんあったのも、ハマった理由です。
この小説は、再生の物語。
それだけでなく、今の自分の立ち位置を確かめるものにもなると思います。
どれだけ頭を使って考えて、何に向かって、何のために動き、働くのか。
一般論なんて一切通用しない時、自分はどう考え、未来を紡ぐのか。
それができていない人、考えたことがないような人が読むと、
自分を恥じてしまうような内容かも知れません。
それくらいの本気度が、ライトかつカジュアルな文書の中に詰め込まれています。
この作品、シリーズ化され2014年の4本目で完結したようです。
多分買うと思いますが、まだこの1作目を何度も何度も読んでおきたい。そう思っています。
シリアスな内容を読む者にそう感じさせないような文章、
その表現手段をもっと観察したいからです。
ちなみに、計算ずくで軽薄に振る舞う主人公の真介に対し、
それを見抜いた陽子は褒め言葉のように思います。
「社会規範的にはロクデナシ」
そう思わせる主人公の真介、憧れます。
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「君たちに明日はない」を読んで~僕は今、ここに語られるだけの人生を歩んでいるか~
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