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地縛記憶2: 京都、地脈の乱れ(第30回)

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 気づくと、佑太の手には、先程消えた青い水晶玉が握られていた。 見ると、水晶玉には『信』という字が刻まれている。 目の前の壁にはポスターが貼られ、その中の高台院の肖像画が穏やかな笑みを浮かべていた。 「『信』か……さっき見た……杏子、君は見た? この青い水晶玉が高台院の肖像画の中に飛び込んだの」 「ええ、見ました。 青い水晶玉がポスターに飛び込んで消え、そのあと、高台院様が目の前を歩いて行かれ、高台寺の石段の坂を上り、それを二人で追いかけて……そして、霊屋の前で……」 「ってことは、君も僕と一緒に、同じこと、体験したってこと?」 「ええ、そうです」 「そうか、とすると、あれは地縛記憶ではなくて、二人とも異界に入っていたってことか」 「異界ですか?」 「そう。 そうじゃなければ、二人で同じ幻を見てたってことになる」 「そうですよね。 今、私たちがいるのは圓徳院でしょう。 でも、さっきは高台寺の霊屋の前。 ほんとに高台寺だったのかしら、私たちが見たのは?」 「よし、確かめてみるか」  二人は圓徳院を出て高台寺へと向かった。 佑太も杏子も高台寺に来るのは今回が初めてのはずだった。  しかし、台所坂を登ってからの順路沿いの建物は、先程高台院を追いかけた時に見たままのつくりだった。 ただ違っていたのは、受付の係員や数多くの観光客などの姿が見られたことと、霊屋の前に高台院の姿が見えなかったことである。 「この建物、さっきと同じだ。ってことは、やはり、幻じゃなかったってことか」 「高台院様は、私たちを異界に呼び寄せて、使命を託されたってことに」  そう言って杏子は佑太を見たが、その眼には覚悟が表れていた。 「高台院は、西に行くように……そして、都最古の古刹、渡来の者の建てし寺へ……そして、そこに祭られし仏の使者を拝めって……そのお寺って、いったい……」 「佑太さん、その古刹って、広隆寺じゃないかしら」 「どうして、広隆寺なの?」 「私の記憶では、京都で一番古いお寺って言ったら、広隆寺のはずなんです」 「そうか、杏子、詳しいんだね」 「ええ、小さい頃から、色々と勉強させられましたから」  杏子は、自分の知識が佑太の役に立つのが嬉しいのか、満足げな顔をした。 「よし、行く先は決まった。 とにかく、お参りを済ませようか。 それにお昼も近いから、食事もね」  二人は霊屋に向かって手を合わせ、高台院に使命を果たすことを誓っていた。                                                     続く


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