佑太たちがタクシーを降りると、目の前の参道は観光客でにぎわっていた。
「右手の山が高台寺になるのかな?」
「ええ、右が高台寺、そして、左が圓(えん)徳院(とくいん)のはずです」
「圓徳院? それ、高台寺と何か関係あるの?」
「ええ、おおありです。 圓徳院って、高台院が亡くなるまでの終の棲家。 だから、この圓徳院で、高台院は息を引き取られたのです」
杏子が言うように、圓徳院は、高台院が亡くなるまでの十九年間の余生を送ったところである。 そして、高台院が亡くなると、その九年後に高台院の実家である木下家の菩提寺となっている。
「そうか、そういうことだと、まずは圓徳院からだな」
佑太は言った。
二人は、高台寺に隣接する圓(えん)徳院(とくいん)正面の長屋門から境内へと入った。
長屋門をくぐるとすぐに杏子が訊いた。
「ほんとうに、ここでよかったのですか?」
「ああ、ここだと思う。 まずは高台院が息を引き取ったところが起点になる、そんな気がするんだ」
佑太が見回すと、境内には先客の観光客数人の姿が見えたが、意外と静かだった。 彼の立つ位置の右手の壁の向こうは店舗が並ぶ洒落た市場になっていたが、中は観光客で賑わっているようだった。 その市場は、遠い昔、高台院がただ一人、足繁く歩いたところのはずだが、今は様変わりして人が集まる観光地となっている。 左手の壁を見ると、象牙色の頭巾を被る高台院の肖像画のポスターが貼られていた。
〈ここに何か手掛かりが、あるはずだ〉
佑太が手掛かりを探しながら、ゆっくりと圓徳院の境内を歩いていると、守り袋を入れたポケットに温もりを感じた。 左手で探ると、指先に温かい布の感触があった。
〈これは?〉
守り袋が熱を帯びている。 佑太が袋を取り出して中を覗くと、青い水晶玉が光を放っていた。 取り出して掌にのせると、青い水晶玉は、しばらくはじっと動かなかったが、突然掌を離れるや宙に舞い上がった。 そして、一瞬静止したあと、入り口の方へと蛍が舞うように飛び、先程見たポスターの中に入りこんだように見えた。
二人は、すぐに、珠を追いかけて、ポスターの前まで走った。だが、ポスターのどこにも、青い水晶玉が入った痕跡はなかった。
「水晶玉、確かにこの中に入ったように見えたんだけどな……」
「ええ、私も見ました。 でも、どこに消えたんでしょう。 水晶玉が光を放って飛んで行くなんて……不思議だわ。 それに……あらっ、さっきまで人がいっぱいだったのに……」
杏子に言われて、佑太は、境内の様子が先程までと全く違っていることに気付いた。
「人の気配がなくなってるね」
二人は、長屋門の周囲を探してみたが、先程までみられた数多くの観光客の姿はなかった。
続く
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