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アンナ・カヴァン『アサイラム・ピース』(国書刊行会)

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短篇小説日和』の「輝く草地」でも改めて衝撃を受けたアンナ・カヴァンの作品集です。シンプルな装丁がよく似合う透明で静かで本当に美しい世界観と、そこに放り込まれて周囲と関わりを持てずにいる主人公の孤独のすさまじさに圧倒されます。 異国の古城で目撃した正体不明の囚人、精神病療養所で繰り広げられる寸劇など、主人公と世界のどちらか(もしくは両方)が狂っているとしか考えられない辛い話ばかりなのに、文章自体はどこまでも明晰なのがまた読者の不安をかき立てます。それはお前がおかしい、と語り手に向かって言い切れたら気が楽になりそうなんですけれども、そうは問屋が卸してくれないんですよ。 文体に加えて、主人公の置かれた異様な状況の真相が明らかにされないことがカフカ的な情緒不安定を呼び起こします。何がどうなって彼女がこんな事態に陥っているのか知りたい、しかし知ってしまったらもっとひどいことになるに違いない、でも知りたいジレンマです。 他の人に手放しでおすすめしたい本とは言いがたいのですがもっと読みたくなる、邦訳が出たら小躍りしたくなるであろう作家でした。エミリー・ディキンソンやフラナリー・オコナーを味わえる人とか、Coccoがわかる男性なら大丈夫ではないでしょうか。 アサイラム・ピース


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