加賀恭一郎シリーズ、八作目。 待ってました「新参者」。
小説 「しんざんもの」 東野圭吾 講談社文庫(¥735 税込) オススメ度 ★★★★☆ ドラマ版 ※ドラマで活躍した黒木メイサ演じる「青山亜美」は、原作ではミニコミ誌の会社で働いておらず、ほとんど活躍もしません。 ※溝端淳平さんが演じた「松宮脩平」は、原作には全然出てこなかったり。 ※ドラマでしょっちゅう出てきたたい焼き屋は、原作には出てきません。 ↓ネタバレあります。未読の人はヒキカエセ。以前、シリーズ7作目の「赤い指」のレビューで「まだ文庫本になっていない」と書いたのは3年前でした。 その頃、阿部寛さん主演でドラマをやっていました。 そして、シリーズ8作目の「麒麟の翼」は、「劇場版新参者」として映画になったのでした。全然違うんだけど。(麒麟…は未読です。映画はテレビで見ました。) 私は、小説の登場人物の名前などを覚えるのが苦手なので、 この本を、ドラマのキャストの顔を思い浮かべながら読みました。 わかりやすくて良かったです。 主人公(刑事)、加賀恭一郎 = 阿部寛 刑事、上杉博史 = 泉谷しげる 被害者、三井峯子 = 原田美枝子 被害者の元夫、清掃会社社長、清瀬直弘 = 三浦友和 清掃会社の税理士、岸田要作 = 笹野高史 清掃会社の秘書、宮本祐理 = マイコ 被害者の息子、清瀬弘毅 = 向井理 被害者の友人(第一発見者)吉岡多美子 = 草刈民代 このほか、加賀が被害者の生前の様子について聞き込みをする人々も、とても豪華です。 同じ原作者のガリレオ映画『真夏の方程式』にも出ている杏さんも、せんべい屋の娘役で出演していました。 この物語は、落語で言うところの「人情物」だと思います。 人情物は、本来ゲラゲラ笑って見るはずの落語なのに、じんわり涙ぐんだりさせられるワケですね。 で、この小説も、本来ミステリのはずなのに、「犯人が解明される爽快感」よりも、 ジーンとくる感覚の方が優先されているように感じました。 私はこれがツボでした。 これまでの加賀シリーズの中で一番好きかも! ナンカいんだよね。 トシかな…。 この作品を、「ミステリ要素が薄いから」という理由で低評価する人は、多分、若いんじゃないかしら。 確かに、他のミステリと比べたら薄いかも知れません。 が、もちろん、人が死んでいるわけですから、ミステリ要素はちゃんと(?)あります。 ミステリとしては、ホワイ?とフー?が主体です。 特に、「本当のホワイ」を見つけるための数々の「小さなホワイたち」が、 加賀の細かい取材にによって一つ一つ明らかになっていくのが、とても面白かったです。 なぜ、被害者の部屋を訪れた保険の営業マンは、自らのアリバイを証明しようとしないのか? なぜ、被害者の部屋に「一つだけワサビ入りの人形焼き」があったのか? なぜ、被害者はいつも同じケーキ屋に通っていたのか? などなどなど。 これらの小さなホワイの解決の積み重ねから、見えてくるものがあるのです。 ネタバレ→要するにもこみち!もこみちが悪い!(いや御本人じゃないんだけど)この配役もバッチリはまっていたと思う。 さて。 テレビに無くて原作にあった、私にとって印象的だったこと。 加賀が、スーツ姿でなく、Tシャツの上から半袖のチェックのシャツをはおった、カジュアルな姿で町を歩き回ること。 テレビでは、加賀はYシャツノーネクタイの「クールビズ」な服装でした。 恐らくスーツがベースの方が、加賀恭一郎らしい・加賀っぽいからでしょう。 (それに、阿部寛さんがカジュアルな服装をしたら、格好良すぎて加賀じゃなくなるかも。) しかも、原作では各章ごとに必ず加賀のこのカジュアルな服装についての記述があって、 私は、 「なぜ作者はいちいち加賀の服装のことを書くんだろう?」 とずっと思っていました。 すると、最後に、加賀なりの「ホワイ」が出てきました。 なるほどね! でも、思惑通りになっていなかったんじゃないかな? その点も、何だか面白かったです。 うーんレビューにこんなに「面白い」って書くのっていかがなものか。 やはりこの作品は現時点で私にとっての「ザ・ベスト・オブ・加賀恭一郎シリーズ」です。 この作品と同様に「人情物」色が強い、「麒麟の翼」が文庫になるのが楽しみです。