アメリカのニューメキシコ州に渡った日本人の若者が、先住民たちの中で暮らしながらアメリカ社会の現実を目の当たりにする――。先住民研究者のアメリカ滞在記。 インディアンなどというと西部劇ではおなじみだけれど、現代ではどんな生活をしているのだろう? 先住民学という言葉に興味が惹かれて読み始めたのだが、本の内容は意外にもぶっ飛んでいた。 まず、最初のほうは筆者が17歳のころにアジアを放浪した記録が描かれる。高校の生活になじめず、将来の展望もなく、自分の人生に切羽詰まった思いを持っていた筆者。ゼロから出発しようと思い立って、わずか6万円だけ持って神戸港から上海へと向かう。 とにかく日本から離れたい――。そんな一心で西へ西へと進んでいく。もちろんお金もないので、安宿に泊まったり、ひたすら現地の人に助けられながらの旅程である。食事をごちそうになったり、ヒッチハイクで移動したり。中国からパキスタン、イラン、トルコ、ギリシアへと移動していく。 両親にろくに行先も告げずに、わずか3万5000円だけ使って中国からヨーロッパの最西端リスボンまでたどり着いてしまったというから無茶苦茶である。旅行慣れしたバックパッカーでももう少しいろいろ準備するものなんじゃないか……。 だけれども、筆者の無茶苦茶ぶりはこれで終わらない。東京に戻ったものの、日本での生活になじめない筆者は、今度はアメリカのワシントンに留学することを決意する。 だが、アメリカに渡ったからといって、急に学業に専念できるものでもない。ワシントンでの生活にもうんざりした筆者は「ニュー」な雰囲気がありそうだということで、ニューメキシコに渡る。しかも、最も住んではいけない場所という噂のある「エスパニョーラ」に住み着くことになるのだ。 そこはギャングと暴走族の町。筆者はそこで何度か殺されそうになったり、犯罪被害を受けたりと危険な目に何度も遭う。日本人として不当な差別も受けながらも、どうにかたくましく生きていく。 エスパニョーラのあるニューメキシコ州北部は、もともと先住民の暮らしていた土地だったが、16世紀にスペイン人がやってきて侵略を始めた。今でも侵略者たちの末裔が暮らしていて、スパニッシュと呼ばれ、先住民との人種間対立を生んでいる。 筆者はこうした環境の中で暮らすうちに、先住民たちと親しい間柄となっていく。そして、彼らの置かれている状況に目を向けるようになる。 アメリカは差別社会と呼ばれるけれども、ここまで壮絶なものなのかと驚かされた。黒人差別という話はよく聞くけれども、先住民差別というのもかなり酷いもののようだ。先住民というだけで標的にされて、なぶり殺しの目に遭ったりする。そんな厳しい現実が描かれている。 研究といっても外部から客観的な視点で研究するのではなくて、内側の社会に溶け込んでの研究である。常人にはとうてい真似のできることではないので、心底すごいと思えてくる本だった。 とにかく読んでいくと、筆者があえて危ないほうに危ないほうに進んでいくので、ひやひやするような緊張感のある本である。こういうメンタルの強い人がいるのかと思って驚かされた。
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