傍から唐沢が口を挟んだ。 「ってことで、先輩、これは遺産相続が絡む事件、ということになるわけですね」 「ああ、その可能性が高いと思う。 何しろ数十億もの遺産らしいからな」 毛利が言った。 「福本洋平さんって……そんなに遺産が?」 佑太は訊いた。 「いいえ、数十億もの遺産を残すのは、洋平の父親の一郎氏の方です。 今は病床に臥せっておられまして……しかし、末期の癌とのことで、いずれ近いうちに……」 「そうでしたか。 では、福本家には大変なことが起きたことになりますね。 なにしろ、一族の当主がまもなく亡くなろうかという時期に、跡継ぎの長男が先だって亡くなったわけですから……」 「そうなんです。 で、現在、一郎氏の資産の残された法定相続人は洋平氏の姉と妹三人、それに洋平氏の子供さん二人ということになります……今のところ」 佑太は、毛利の最後の言葉が引っかかった。 「今のところ……と言うことは、今からまだ相続人が増える可能性が、あると言うことですか?」 「ええ、そうです。 福本一郎氏の奥様は、すでに、二十数年前に亡くなられていまして、その後、結婚されてはいません。 しかし、噂では、あちこちに愛人がおられるということで……」 「そうでしたか。 一郎氏にも、隠し子がおられる可能性が、あると言うことですね」 佑太は、この事件に福本家の複雑な人間関係が影を落としていることを理解した。 「私は、この事件は、絶対に怨霊がからんでいる。 そして、それに操られた誰かが殺人を……じゃないかと思っているんです。 で、話は変わっちゃいますが、先輩、安藤先生にプロファイリング、頼んでみる気は、ないすか?」 唐沢は持論を披露したあとで、毛利に訊いた。 「いや、その必要はないよ。 なんとか、うちの方で犯人の目星はつきそうだからな。 それに、新婚旅行中の先生のお手を煩わせるなんてこと、できないよ。 安藤先生には、また、別の機会に、ご依頼することにするよ」 毛利が自信ありげに、そう言うと、唐沢は残念そうな顔をした。 しかし、佑太は、毛利に断られたことを気にも留めなかった。 それは、この古都の地脈の乱れを鎮めることが自分に課せられた使命だと考えていたからである。 「あのう、カップルたちが見た三人の武者と言うのは、どの辺りに見えたのですか?」 佑太が訊くと、毛利は五条大橋の方を向いて指差した。 「あの辺りです。 明るくなって分かったのですが、あそこには首を切断された猫の死体が三匹、転がっていたんです。 三人の武将と三匹の猫の死体……殺された猫の霊が武将の姿になっていたのか……猫の殺し方が、オカルト的な儀式のように見えましたが、何か意味があるのでしょうかね。 私には分かりませんが……」 毛利は言った。 続く
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