百田尚樹(ひゃくたなおき)さんの作家デビュー作なんですね。 世界一受けたい授業でみて、おもしろそうなのでよんでみました。 今度映画化されるそうで、それも楽しみです。 小説の要約になるのでネタバレです。ご注意ください。 ライターの姉と司法試験受験浪人中の弟。 二人の母は、祖母の最初の夫の子どもであった。二人は祖母の四十九日に祖父からそのことを知らされる。 そして、亡くなった祖父が特攻隊員であったことも知らされる。 姉はライターの仕事で太平洋戦争の特攻隊を調べることもあり、弟に手伝わせて祖父のことを調べ始める。 戦友会などをたどり、集めた祖父の話は、意外な人物像をうかびあがらせる。 冒頭と最後は、祖父が特攻でアメリカ空母に突っ込むところである。 ゼロ戦の天才操縦士である祖父は、敵のレーダーを避けるため何百キロも海上スレスレをとび、急旋回で上昇した後、甲板にみごとな体当たりをするが、抱いてきた爆弾が不発で空母を沈めることはできなかった。 この様子が初めて「カミカゼ」を見たアメリカ兵の目で語られる。 祖父のことを調べると、「命をおしむ臆病者」しかし「ゼロ戦のパイロットとしては天才」という人物像が次第にうかびあがる。 祖父は娘のために何としても生き残るという意思をもっており、当時の軍の方針には逆らうものだったのだ。 それに反発するものは祖父を憎むが、パイロットして自分より優れていることに葛藤をもつ。 純粋に尊敬し、素晴らしい先輩、パイロット、教官として尊敬し慕う者もいた。 親の破産で上の学校にいけず、訓練生となったこと、知的で囲碁をよくし、大局をみることができる人物であったこと。 当時としてはめずらしく、整備にも心をよせて、整備兵たちとも交流があったことなどが、祖父を知る人たちから語られる。 そして、最後にたどり着いた事実は、祖父が特攻にでたとき、飛行機を交換した特攻隊員がいて、それが現在の祖父。祖母と再婚した人物であるということだった。 姉と弟は、祖父の口から、その事情を知る。 現在の祖父は教官時代の祖父の教え子であり、教官時代の祖父を敵戦闘機から救ってケガをしたことがあること。 特攻隊として再開し、一緒に出撃する日、祖父は強固に機体を取り換えることを主張。本来ベテランが乗るべき新型機と新兵に与えられた旧型機であったが、「最後に思い出の機体に乗りたい」と譲らす、出撃したことを知らされる。 そして整備兵などのはなしから、祖父が機体の状態を見抜くことに長けており、おそらく新型機が不調で出撃後不調で戻る可能性が高いことを見抜き、生還できる切符を教え子に譲ったのだという真実にたどりつく。 それまで生き残ることを最優先にしてきた祖父だったが、教え子を見捨てることはできなかったのだ。 そして、現在の祖父は終戦後祖父の妻と子供を探しだし、援助をつづけたのち結婚したのだとう経緯をしるのだった。 また、はっきりとはしないが祖父を憎んでいた人物も、戦後ヤクザの情婦となっていた祖母を救い出してくれていたこともわかった。祖父は死んでなお妻子を守っていたのだ。 この主エピソードの背景として、日中戦争から太平洋戦争へ、そして敗戦へとすすむ日本の軍部の暴走ぶりがかかれる。 祖父は日中戦争でゼロ戦のパイロットになった。生き残るのを目的とするため撃墜数こそ多くはないが、撃墜王といわれる人物たちから一目置かれる存在であった。 真珠湾攻撃にも参加。当時の日本の軍備とアメリカの軍備の比較などで、説得力あった。 国力の差はいかんともしがたいことから、本来日露戦争のように短期決戦で講和に持ち込むべきところを、軍部の暴走でそれもできず。ズルズルと戦闘がながびき、やがてゼロ戦や空母などの戦力の優位はなくなり、敗戦においこまれる様子が丹念にかかれている。 特に戦局よりも自分の出世のみに頓着する軍上層部の迷走ぶりが印象的。 そんな状況で兵士は使い捨てられ(実際アメリカ兵より強いから兵力がすくなくても勝てると思っていたようだ)、やがて大切な資源であるパイロットや戦闘機も使い捨てられていく。 特に戦闘機などの特徴は詳細で、ゼロ戦がどんな風に優秀だったか、そしてなぜ優位が覆されたのかよくわかります。 迫力ありました。
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