「年金生活」ではなく「粘菌生活」を勧める本。著者は、粘菌の研究者・学者・専門家ではなく “写真家”。「粘菌はアメーバー動物の仲間で、アメーバーと菌類の中間的な生き方をしている単細胞生物。『変形菌』とも言われ、その一生で姿が大きく変化します。別に珍しい生物ではなく、食料になる微生物がいて適度な温度と湿度があればどこでも繁殖できるのだとか。土壌中の原生生物(真核生物のうち動物界にも菌類にも属さない生物)の多くはアメーバー生物で、粘菌類はその過半数を占めているそうです」とか「中垣(俊之)教授によれば、日々粘菌に接していると、ただぼんやりと生きているわけではなく、それなりに情報処理をしながら、巧みに生きていると、ひしひしと感じるそうです」とか「記憶や学習とみられる能力があるってことは、やはり『知性』を持っているのではないかと思っちゃいます・・・」というシロウトっぽい書き方がされている。それでも、そのことは気にならない。かえって、粘菌大好きな先輩が、後輩に自分の弱点を承知しつつ教示してくれているという風で、好感がもてる。 当然のことながら写真集としても秀逸。マクロレンズを用いての写真は毒々しいもの、美しいもの、いろいろな姿を見事に写し出して、実際にお目にかかりたい気分になる。著者のフィールドは、北海道、東北がメインのようだが、粘菌は東京の公園でも見出せるという。 著者は、都内在住の中学生研究者に訊く。《「粘菌を知らない人に粘菌のことを好きになってもらうにはどうしたらいいと思う?」/ 増井さんは、しばらく考えて、/ 「野外へ出掛けて、実際に粘菌を見つけてもらうことじゃないですか」と、にっこり。/ 「粘菌を見つけた時はいつも、こんな不思議な生きものが、こんなところにもいるのかと本当に感動するんです」》 自然のフィールドへ出かけることを著者は繰り返しススメ・・、《近所の公園だって、神社仏閣だって、木やコケが生えていたら、きっとその場所に適した自然の姿を見ることができます。もし、粘菌が見つからなくても、コケや地衣類ならきっと見つかるはず、ルーペでのぞいてみれば、今まで知らなかったことを後悔するほどの別世界を垣間見ることができます。やがて、粘菌を探しだす目「粘菌目」が鍛えられ、そのうちきっと粘菌と出会えることでしょう》と、保証している。 一度、手にとって、見て欲しい本。「粘菌目」を涵養できること必定。
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