評価:★★★★★
山本弘という作家は、しばしば私の「感動するツボ」のど真ん中を
ピンポイントで撃ち抜くような作品を書く。
この「MM9」シリーズがまさにそれだ。
今年のお盆休みの〆はこの本だったのだが、読み終わったとき、つくづく思った。
「怪獣」の出現する国に生まれてよかった。
「ウルトラマン」のいる国に生まれてよかった。
「円谷英二」と同じ国に生まれてよかった、・・・・と。
あなたが「特撮TVドラマ」と「怪獣映画」に熱狂した記憶を持つ人ならば、
この本は、至福の読書の時間を与えてくれるだろう。
(もっとも、上記のような言葉に全く思い入れを感じない人には、
この本のどこが面白いのかわからないかも知れないし、
これから私が書く文章の意味が理解できないだろう。
ある意味、読む人を選ぶ本ではあるとは思う。)
よく、本の解説なんかに
「これからこの本を読むあなたが羨ましい。こんな面白い話を読めるんだから」
なんて書いてあるけど、これこそ、このシリーズのためにあるような言葉だ。
ああ、この「MM9シリーズ」3冊を未読のあなた。私はあなたが羨ましい。
こんなに楽しく、面白く、萌えて、燃えて、泣ける!
まさに「これぞエンターテインメント!」という作品をこれから読めるなんて。
「本格SF+怪獣小説」と銘打ったシリーズ・第3弾。
冒頭の評価でもおわかりのように、私はこの作品に最大級の評価をつけた。
現在のところ、文句なしの「今年読んだ本・第1位」である。
地震・台風と並んで怪獣が自然災害として存在する世界を舞台にして、
怪獣対策専門チーム「気象庁特異生物対策部」、
略して「気特対」の活躍を描く連作短編集だった第1作「MM9」。
そして、第2作「MM9 -invasion-」では、
チルゾギーニャ遊星人(!)が地球侵略のために送り込んだ
巨大宇宙怪獣が東京に出現し、破壊の限りを尽くす。
迎え撃つは、第1作に登場した怪獣「ヒメ」。
東京スカイツリーを舞台に、二大怪獣の激突が描かれる。
そして、満を持しての第3作「MM9 -destruction-」(本書)は、
いよいよ「大怪獣総進撃」そして「地球最大の決戦」だ!
もしこの作品をこれから読んでみようかという人がいたら、
ぜひ第1作から読んでほしい。
登場キャラが共通していることもあるが、なにより、
怪獣が科学的矛盾無しに存在できる世界の設定がとにかく面白いし、
それをふまえると、後続する2作をより面白く読める。
特に第2作と第3作は時系列的にも連続しているので、
できたら間を開けずに読むことをオススメする。
さて、この後にだらだらと続く長い駄文なんか読むヒマがあったら
今すぐ、本屋さんに行って(あるいはネットでポチって)
3冊そろえましょう。
文庫になってるのは第1作「MM9」だけで、後の2作はまだ単行本なので
ちょっと値が張るんだけど、払った分以上に楽しめると思う。
さて、こんな話ばかりいくら書いても
本編の面白さは伝わらないような気がするので、ちょっと内容に触れよう。
なるべくネタバレにならないように努力するけど、
予備知識なしで読みたい人は、以下の文章を読むのはやめて
今すぐ、本屋さんに行って(ry
第2作「MM9 -invasion-」での、スカイツリーの戦いから二日後。
主人公の少年・一騎と彼の幼なじみ・亜紀子、そして「怪獣」ヒメは
茨城県内のある神社に護送され、そこで匿われることになる。
ここでヒメという存在について説明しなければいけないだろう。
書き出すと長くなるんだが、なるべく短く書いてみる。
この物語のキーパースン(キーモンスター?)であり、
ある意味主役とも言える重要キャラなのだから。
まず外見は、普通の10代半ばの美少女。
(どうして美少女が「怪獣」なのかは、第1作でしっかり説明されている。
実はこの作品世界での「怪獣」と、私たちのイメージする「怪獣」とは
ちょっと異なるところがあるのだが、
その辺を理解するためにも、ぜひ第1作から順番に読んで欲しい。)
身長も人間並みなのだが、戦闘時には身長20m(非常時には40m)まで
巨大化することができる。
ネタバレになるのでもうこれ以上は書かないが
このシリーズの魅力の第一は、この「ヒメ」というキャラを生み出したこと。
「怪獣」なのに、一人の女の子として見れば可愛くて一途でとても健気。
もう最大級に「燃えて、萌える!」キャラになってる。
そんな彼女(?)に読者は感情移入せずにはいられないだろう。
そしてそれがクライマックスの感動へとつながっていくのだ。
匿われた神社で、一騎たちは
いにしえより日本を怪獣災害から守ってきたという
巫女・美星ひかる(これも美少女)に引き合わされる。
物語の前半は、亜紀子・ひかる・ヒメと、3人の美少女に囲まれた一騎の
ライトノベル的な日常(ラッキースケベあり)と、
本州周辺で起こる透明怪獣の脅威が並行して描かれる。
この他愛もないコメディな日常シーンも、読者サービスのためだけではなく、
後半への伏線になっているのがまた抜かりない。
その後半では、いよいよチルギゾーニャ遊星人の魔の手が一騎たちに迫る。
やがて明らかになる侵略者の真の標的。
そしてクライマックスでは、
巨大怪獣たちの雄叫びが大海を裂き、大空に轟き、大地を割って、
地球の運命をかけた一大決戦へと突入する!
とにかく怪獣好き、特撮好きの人にはたまらない小説だ。
チルギゾーニャ遊星人が送り込む怪獣たちも
元ネタを考えながら読むのも楽しい。
表紙の絵は、作中に登場する「怪獣8号」だけど、
読んでみると明らかに××××××だし。
(ちなみにこの世界では、怪獣はその年の確認された順に
台風のように「○号」と番号が振られる。)
コレは××××と×××がモデルだろうなー、
アレは絶対×××だぞー、とかね。
侵略者が次々に繰り出す怪獣軍団に対し、
さすがのヒメも多勢に無勢。しかし作者はちゃんとわかってる。
特撮ファン、怪獣ファンなら泣いて喜ぶ展開が待っているとだけ書いておこう。
ウルトラシリーズへのオマージュもてんこ盛り。
ヒメが××に××れてしまうシーンを読んで、
これは「タロウ」の「あの話」だったなー、とか
それを自衛隊が××しようとするのは、
これは「セブン」の「あの話」みたいだなー、とか。
登場人物の名前も凝ってる。たとえば、怪獣学者の稲本昭彦なんてねぇ。
(ああ、平田昭彦さんって、亡くなって何年になるんだろ・・・)
ほとんどの怪獣映画では、あまり役に立たない自衛隊なんだけど
今作ではしっかり頑張っていて見せ場もばっちりある。
あと、アニメなんだけど「トップをねらえ!」もちょっぴり入ってるかな。
(あれも宇宙怪獣と戦う話だったしね。)
だって、最終決戦でのあれは×××××・・・でしょう?
ああ、いくら書いてもこの作品の良さが伝えられない。
もう自分の筆力のなさが情けない。でも、これだけは書いておきたい。
この作品のクライマックスで、
私は、あふれる涙をこらえることができなかったことを。