「もう一つお伺いしますが……ホテルマネージャーの勘では、二人の関係、どう思われました? たとえば……愛人だとか」 「愛人? いえ、わたくしにはそんな男女の関係には見えませんでした。 確かに、ホテルのスタッフの中にはそういう風な目で見ていた者もいたようですが、わたくしには、そうは。 むしろ、仲のよい父と娘のような雰囲気を感じておりましたが、はい」 御所の答えは、唐沢の憶測を否定するものだったのか、唐沢の顔がしぶくなった。 「そうですか、ところで府警の捜査員にも同じようなことを話されたのですか?」 「ええ、もちろんでございます。 ええっと、確か、毛利警部と言われてました、わたくしがお話した府警の方は」 「ああ、毛利警部でしたか、ここに来られたのは?」 「はい、そうでございます。 毛利警部をごぞんじで?」 「はい、昔からの知り合いです。 いや、どうも、有難うございました」 「いえいえ、どう致しまして。 それで、お役に立ちましたでしょうか? わたくしの話……」 御所は唐沢と佑太、そして杏子の顔を見回しながら訊いた。 「ええ、大変、参考になりました」 唐沢が答えた。 「では、わたくしはこれで。 また、何かございましたら、フロントの者にお伝えください。 わたくしの方で、出来る限り対処いたしますので。 なにしろ安田様とお知り合いの刑事様でいらっしゃいますから」 御所はそう言うと、四人それぞれに会釈をして下がっていった。 御所の姿が消えると、佑太が口を開いた。 「唐沢さん、何か閃きました?」 「いえ、私は、福本が沢口絵里香相手に少女買春でもやっててトラブルに巻き込まれ、殺された……そんな風に推理しているのですが……」 唐沢は佑太に答えた。 「少女、買春ですか……福本さんという方は、いったい、どういった人物なんですか?」 佑太が訊くと、唐沢は今朝、宿泊のホテルの雑誌で仕入れた情報を佑太に披露していった。 話を聞き終わると、佑太は言った。 「福本財閥の御曹司で、洛北大学教育学部の教授ですか。 そんな人物が少女買春ということであれば、それはニュースネタとしては大きいでしょうが……はたして、そうなんでしょうか?」 「うーん、それは……ああ、もうひとつありました。 この事件には、怨霊が絡んでいる可能性があるのです」 「怨霊、ですか?」 「ええ、目撃者がいるのですよ、二組のカップルですが……」 「えっ、怨霊を目撃ですか? で、どんな怨霊です?」 「それが……三人の武者姿の……」 唐沢はカップルの目撃談についても語った。 唐沢の話を聞きながら、佑太は杏子と顔を見合わせていた。 二人は伊勢の内宮で会った異相の老婆の言葉を思い出していたのだ。 「地脈の乱れ……」 佑太は思わず呟いていた。 京都の地脈の乱れがこの事件の根底にあるのでは、そして、それを鎮めるのが自分と杏子の役目なのでは、彼の頭にはそんな考えが浮かんでいたのである。
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