「あのう、京都では何か変わったことが起きていませんか? たとえば、何か事件とか……」 「事件ですか? ええ、あっ、そうだ。 正面橋で転落して亡くなられた方がおられて……亡くなられた方は二人、四十代後半の男性と若い女性です。 若い女性というのが、どうも未成年のようなんです」 唐沢が正面橋で起きた事件を話題に出した。 「四十代後半の男性と未成年の女性ですか……親子ほどの歳の差がありますね」 杏子が言った。 「歳の差はありますが……親子ではないようです。 どうも、福本には少女買春疑惑があるのですよ。 その相手が死んだ女性じゃないかと……」 「どうして、そう?」 佑太が訊いた。 「実は、事件当夜、このレストランで、福本が少女と一緒に食事をしているところを目撃されているんです」 「このレストランで、ですか?」 佑太は訊きながら周りを見回した。 近づく人の気配を感じたのだ。 すると、衝立の向こうからタキシード姿の男が姿を現した。 男はテーブルの傍まで来ると、やわらかい笑みを浮かべ、腰を折った。 「いらっしゃいませ、安藤様。 わたくし、このホテルのマネージャーをしております御所(ごしょ)と申す者でございます。 如何でしょうか、料理の方は、お口に合いましたでしょうか?」 御所というマネージャーは、佑太と杏子の顔を交互に見ながら訊いた。 「はい、十分楽しませてもらっています。 それに、立派な部屋まで用意していただきまして、有難うございました」 佑太は丁重に礼を述べた。 「いえいえ、どう致しまして。 安田様のお嬢様ご夫妻がお泊りになるのですから、それ位、当たり前のことで。 他に何かわたくしが仰せつかることはございませんでしょうか?」 御所の言葉で佑太は思い切って訊くことにした。 「あのう、このホテルに、警察からの聞き込み、あってませんか?」 佑太が訊くと、御所の顔に緊張が走った。 続く
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