20世紀初頭のウィーンで悠々自適の暮らしを送る素人探偵ダゴベルト。時折友人夫妻の晩餐に招待されては国家的陰謀から社交界を揺るがす事件まで、自身が解決したさまざまな難事件の顛末を物語る。
1910~12年にかけてレクラム文庫から刊行された全18篇から、9篇を厳選して収録したオリジナル短篇集です。1910年代のレクラム文庫から出たミステリですよ、どんなのだか気になるでしょう。気になるでしょう。S・S・ヴァン・ダイン編のミステリ傑作選にも採られているしクイーンの定員にも選ばれているというのでかっちりした作品化と思ったら、世界史の授業に出てくるヨーロッパを舞台にした実に優雅で貴族的な探偵譚でした。今はもうないオーストリア=ハンガリー帝国の話というだけでもロマンを感じませんか。
第一次世界大戦直前のウィーンで活躍した名探偵ってどんな人なのかと今になって言われても、歴史小説の登場人物としてしか想像できませんでした。しかしこちらは現代になって書かれた歴史ミステリではなく、当時生きていた作家が当時のセンスで書いた人気作品ですよ。現代の視点からするとかなり奇妙な風習や考え方が笑いのネタにするでも何でもなく当たり前のように描かれていて、これはもう古典文学を読むように注釈を参照しながら読んでも良いんじゃないかと思えてきます。
華やかな都で密かに行われる恐るべき犯罪者との対決を、高等遊民探偵と友人たちの会話を通して存分に楽しめる贅沢な時間をいただきました。この友人夫妻の、若い奥さんが実にかわいらしいんですよ。他のミステリではちょっと見ないスタイルの探偵術について、帝国の制度に絡めて考察した訳者解説もおすすめです。
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