<裏表紙あらすじ>
天才的テナーサックス奏者・永見緋太郎は、相変わらず音楽一筋の日々を過ごしている。しかし、ひとたび謎に遭遇すると……。初来日することになったアメリカのバンドにまつわる人情味溢れる謎を描く表題作「辛い飴」、第62回日本推理作家協会賞を受賞した「渋い夢」、さらに特別篇「さっちゃんのアルト」を加えた全8篇。ライヴ感ある日常の謎的ジャズミステリ、シリーズ第2弾。
「落下する緑―永見緋太郎の事件簿」 (創元推理文庫)に続くシリーズ第2弾。
前作は、各話のタイトルに色がつくという趣向でしたが、今回は味覚。
創元推理文庫らしく、表紙をめくったところにある扉のあらすじからも引用します。
唐島英治クインテットのテナーサックス奏者・永見緋太郎は、天才的な技術とは裏腹に、相変わらず音楽以外に興味を持たない日々。しかし、ひとたび謎や不思議な出来事に遭遇すると、大胆にも的確にその真相に突いてくる。名古屋のライヴハウスに現れたという伝説のブルースマンにまつわる謎、九州地方の島で唐島と永見が出合った風変わりな音楽とのセッションの顛末、“密室”から忽然と消失したグランドピアノの行方、など七編に、特別編「さっちゃんのアルト」を収録。ライヴ感溢れる、日常の謎的ジャズミステリ〈永見緋太郎の事件簿〉第二弾。
ジャズはあまり聞いたことがなく、(楽器の)演奏もまったくしないのですが、この作品を読んでいると、ジャズが鳴り響いてきます。音を、演奏を文章で伝えるって、すごいですよね。各話の最後に「田中啓文の『大きなお世話』的参考レコード」と題したコーナーがあって、作品とリンクするジャズガイドもついていてお得な(?)一冊です。
「日常の謎的」とありますが、ミステリが薄味すぎる巷にあふれるレベルの低い「日常の謎」とはちがいます。「渋い夢」が日本推理作家協会賞を受賞していることからもうかがえますが、しっかりミステリです。
授賞時の選考委員であった山田正紀が、当時は「読みあやまっていた」といいながら、非常に熱のこもった解説を寄せていて、読みごたえあり--ただし、解説を読むのは、「渋い夢」を読み終わってからにしてくださいね。
殺人や盗難というようないわゆる派手な事件が起こらなくても、ミステリ的興趣が満ち溢れています。
ミステリ的なアイデアを抛り込むことで、くるっと世界が変わって見える、そういう醍醐味です。
得意の(?)駄洒落を封印した、田中啓文の威力を十分に楽しんでください。
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