![中世イスラムの図書館と西洋―古代の知を回帰させ,文字と書物の帝国を築き西洋を覚醒させた人々 中世イスラムの図書館と西洋―古代の知を回帰させ,文字と書物の帝国を築き西洋を覚醒させた人々]()
以下、上記書籍からの引用
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“知を求めよ、それがムスリムの努め”
これはムハンマドの言葉としてハディース(言行録)の中で説かれている句である。また、こうも述べている“学者のインクは殉教者の血よりも聖なるものである”。学問を奨励し、その強いうしろだてを得たムスリムは、世界最高の宗教を戴き、世界最高の文明を育んだ地域に立っているという自覚のもとに、最高権力者から一般市民にいたるまで、学問の探求を始めるのである。
イスラム教もキリスト教と同様に、神は万物を創造した創造主であることに変わりはない。キリスト教はこのために、神の領域を侵す学問であるとして、哲学、科学と真理探究(自然の法則を明らかにする。神学上の「真理」ではない)を禁止したが、初期のイスラム教においては逆に奨励した。これはイスラムでは暦の正確さやマッカ礼拝とその位置を知ること、経済・交易を支える度量衡と数学の知識が欠かせなかったからである。
アッバス朝中期まで、ムタジラ派という合理主義、つまり万物の起源は神の創造によるものではないという考えを唱える学派の学者でさえもカリフの周辺にいて、議論をしているが、唯一絶対の神の下でのこうした議論は極めて危険であったと思われる。しかし大規模な翻訳活動による、アリストテレスを始めとするギリシャ、ペルシャの知を取り込む上で、大きな力となったのである。キリスト教西洋中世とこの点で全く異なっている。ムスリムの世界では真理の探究は神により近づく方法であった。彼らがこうした考えを基点とするに至ったのは、人間の理性の力をもとに発達したギリシャ思弁哲学によって目を開かれたからである。
あるイスラムの神学者などは、懐疑こそ知識の第一必要条件だと論じさえしている。これを異端の疑いの強い思想とするムスリムも一部にはあったが、正統的なイスラムの学者の多くは、イスラムの教義を明確にし、非イスラム教徒によって紹介さえつつあった異端的な思想から自分たちの信仰を守るためには、ギリシャ的合理主義の論法が道具になると考えた。ギリシャ思想に対する関心と、ペルシャやインドからの外来思想に刺激されて、科学、文学、哲学、神学の分野で活発な運動が起こった。これらの思潮に力を得て、アッバス朝成立のほぼ20年前に発足した革新的な神学グループがムタジラ派であった。カリフ、マムーンが夢の中でアリストテレスと対話したという逸話(後述)はこうした事情を反映したものである。
この学派の考え方は、アラブ人哲学者キンディ(al-Kindi,801?-66)の言うことを聞けばわかる。「真理を認識し、理解するためには、それがたとえ古(いにしえ)の外国人のものであろうと、またどこから来たものであろうとも、それを恥ずかしがってはならない」。ムタジラ派は、理性と論理を使って検討を始め、その学説の普及にあたっては、ギリシャ的論法を利用した(後に退けられるが)。これは不滅の価値をもつ考え方だった。
イスラム教による学問の奨励と、先に述べた図書製作における大革新(※文字が大文字から小文字使用に移ったことと紙の導入)によって、文字と書物の大帝国が出現する。ムスリムは本好きな人が多かった。バグダッドのような大都市ばかりでなく、地方の町や村でも本を奪い合うように求める人々がいた。学問があり学者であることは、文化が最高潮期に達していた11-12世紀においては、大きな賛辞と崇敬を持って受け入れられた。図書館も無数にあったし、書籍の商売も活発だった。10世紀にペルシャを旅した神学者が、その地の各村々で書籍に群がる人々を見ている。
このように文化度が高く、知的好奇心に満ちた人々がいて、しかも古代文明発祥の地にいると自覚するムスリムにとって、各地の知や文化を回帰させ、自分たちがその継承者になるという強い自負や動機がある以上、図書館の出現は必然といえる。ただ、イスラムはギリシャやビザンツの文学や歴史は、自分たちの祖先の成果とは無関係だとして興味がなく、前イスラム期にこの地で興隆した文化の担い手であったユダヤ、キリスト期及び古代に繋がる直接的な継続を確認することが大事なのであった。
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以上
中世イスラムの図書館と西洋―古代の知を回帰させ,文字と書物の帝国を築き西洋を覚醒させた人々
原田安啓著 近代文芸社発行
第3章 中世イスラムの図書館
2 図書製作上の大革新
“知を求めよ、それがムスリムの努め”
p55-57
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美しい知の遺産 世界の図書館
- 作者: ジェームズ・W・P・キャンベル
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2014/10/16
- メディア: 大型本