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地縛記憶2: 京都、地脈の乱れ(第11回)

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 しばらく行くと、石ころだらけの河原の一部に草むらが見えた。 唐沢が近づくと、草をかき分けるように何かが立ち上がってきた。 〈おおっ、何だ? あいつらは〉  立ち上がっていたのは、血まみれの鎧を着た三人の武将だった。 唐沢が足を止めると、武将たちの後ろに次々と数え切れない数の男たちが立ち上がってくる。 その中には女子供も混じっている。 彼らは皆、汚れた着物をまとい、頭は髷を結ったもの、髷が解けてざんばら髪になったものばかりで、現代(いま)の者とは思えず、血の気のない不気味な顔をしていた。  突然、彼らの目が、一斉に赤く光を放った。 まもなく、首に猫と同じように光の線が走り始め、最後はやはり光の輪になった。 輪がつながったとたん、首は胴体から離れ、真っ赤な血が飛び散った。 胴体を離れた首は自らの手に収まったまま唐沢の方を睨んでいたが、徐々に彼に向かって近づいてきた。 唐沢は怖くなった。 彼は、じりじりと数歩後ずさりをすると、回れ右をするなり、走りだした。  彼は一目散に走った。 通りすぎる左手の草むらから猫の赤い眼がにらんでいたが、死に物狂いでその横を走り抜けた。 徐々に橋が近づいてきた。 見ると、橋の真下に男が立っている。 〈うそだろ、あれは福本じゃないか、ここで死んだ〉  唐沢を見る福本の目が赤く光り、その口元が笑ったように見えた。 〈どうしようか? そうだ、あれがあったんだ〉  唐沢は懐からお守り袋を取り出すと、福本に向かってかざした。 すると、お守りは光を放ち始めた。 光は徐々に大きくなり、彼の身体を包んだ。 福本は、光が眩しいのか、目を閉じて顔の前に両手をかざしている。 〈えいっ!〉  唐沢が、河原の土を蹴ると、彼の身体は福本の頭上をはるかに越えて橋の欄干の上に出た。 〈やったぞ!〉  と思った時、どこからか猛獣の叫びが聞こえた。 「なんだ、夢か」  気づくと、唐沢はベッドから落ちて床に寝ていた。 ベッドの上から美香のいびきが聞こえる。 「さっきのは、美香のいびきか……なんで、ベッドから落ちたんだ」  唐沢は起き上がってベッドの上を見た。 美香の足が彼の寝ていた場所に侵入している。 枕元の時計は午前六時を少し過ぎていた。 「美香の奴、俺をベッドから蹴落したんだな。 こりゃあ、ツインじゃねーと、まじ危ねーよな」  彼は、妻の手と足を押し戻してスペースをつくり、そこにもぐり込んだ。 寝つきのよい唐沢はすぐに寝入ったが、そのころ事件は新たな展開を見せていた。                                                続く


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