青く澄み切った空に、どこまでも続く鰯雲。それは小学校の裏山へ、写生をしに行った日の空だ。「テッちゃん。そこの葉っぱ見てごらん?」 珍しい虫を見つけた僕は、隣で絵を描いていたテツヤに話かけた。「なんだ。ヘンテコなバッタだな?」 「あれはニホントビナナフシっていう虫だよ。すごいぞ、背中にオスが乗っている」 「木の枝みたいな、それも下のメスより小さいのがオス?情けないな」 「大抵のナナフシのオスは、メスより小さいんだよ。とっても変わった虫だよ」 でね。葉っぱや木の枝の真似をして、敵の目から隠れるんだ」 「隠れるなんて、せこいやつ!」 もし、手や足を捕まれたら、そこを切り離して逃げてしまうが、またすぐに生えてくるらしい。 テツヤは、野球が得意で体が大きい。それに、青白い僕と違って真っ黒な健康児だ。「そうかなぁ?小さな虫が生きぬくための賢い方法だよ」 「ふ~ん。よく見ると、チビでガリガリのお前に似ているな」 それからテツヤは僕のことをナナフシと呼び、いつしかそれがあだ名となった。 <つづく>
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