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「夢を売る男」(百田 尚樹)

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百田尚樹の小説を読むのは「モンスター」「風の中のマリア」「海賊とよばれた男」についで4作品目。
夢を売る男

夢を売る男

  • 作者: 百田 尚樹
  • 出版社/メーカー: 太田出版
  • 発売日: 2013/02/15
  • メディア: 単行本
 「出版界の醜い現状を赤裸々に描く」的な宣伝文句があったように記憶している。「こんなの出しちゃったら、もう出版界から追放されてしまうかも?」みたいなことも言ってたようだ。当然興味をそそられたわけだ。  出版界とは言っても、普通の出版社ではなく〈自費出版〉の話であった。いや正確には「ジョイントプレス」という、会社側も費用を出し、不足分を著者が負担するというものだった。ISBNもちゃんと取得し、取次経由で流通もさせるというのだが、実は〈カモ〉目当ての相当あこぎな商売を営む出版社のやりて編集者が主人公である。  世の中には、身の程知らずの自己承認欲求亡者で、自分の本を出したくてたまらない人種というのがたくさん居て、これが〈カモ〉なのであるが、その具体例、つけこむ〈手口〉、クレーム対応のバリエーションなどがリアルに描かれる。口の上手さが主人公の身上だ。  その「作品」(なるもの)の質たるや、自画自賛、自己陶酔、自惚れた夜郎自大にして文章は稚拙、内容は薄っぺらあるいは支離滅裂という、箸にも棒にもかからないような程度の低いシロモノ(要するに「チラ裏」ですな)で、自信だけは人一倍というどうしようもないものばかりなのだが、おだてて顧客にする(カネを出させる)そのテクニックたるや、大した役者である(この辺の描写は作者の面目躍如といったところか)。  当然売れるわけもないのだが、万一ヒットしたらそれはそれで儲かるし、売れなくても著者から法外な(しかし、支払能力は考慮している)負担金を巻き上げてウハウハという商売なのである。これを称して「夢を売る」商売としているわけだが、かなり苦しい言い訳ではある。大体「夢を売る」と言ったら、〈宝くじ〉と同じではないか!(実際ヒットする確率は限りなくゼロに近いわけだが、「買わなきゃ当たらない」の法則がここにも貫徹している、と。)  で、そういう悪徳商法の実態を描いた、と思っていたら、もっと悪質な詐欺的商法のライバル社が出てきて、それとの戦いになるのだが、……これ以上はネタバレになるので控えよう。  結末はちょっと綺麗事でまとめ過ぎの感があり、〈お涙頂戴〉の手法がすべり気味なのだけれど。  読みやすいし、面白くもある(「あるある」的な面白さで、意外性はない)が、「海賊とよばれた男」ほどの感動はない。執筆に要した労力の差も歴然としている。

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