照る日曇る日第615回
外務省に入って大騒動をやらかした著者の青春学問哲学飲酒大活躍大発展回顧録です。
本書には、「フィールドはこの世界である」と宣言するチェコの神学者フロマートカの神学思想の影響を受け、教授や先輩たちの「大学に残れ」という声を押し切ってあえて外交官となってチェコ赴任を目指した若者の思想的な悩み、混迷と不信の時代のただなかにあって普遍の神を求め、他者、政治経済社会の総体と熱く対峙しようとする若き学徒の鮮烈ないき方が活写されています。
また「教師と教え子」という世間並みの枠組みを大きく逸脱して、おのれの実存を熱く曝け出す神学部の教授と学生たちの「夢中になって学び合う姿」は感動的で、その戦中派の老教授の中にかつて郷里の丹陽教会で牧師を務められたわが懐かしき緒方純雄先生の優しくも厳しい顔貌が再三にわたって登場するのが、殊に印象的なのです。
それにしても、日本全国では60年代の狂騒は遠く夕景の彼方に飛び去ったというのに、80年代の偉大なる田舎、京都の中の小さな田舎共同体、同志社大学神学部においては、ほとんど浮世離れした「自由と友愛の奇跡的な小宇宙」が実在していたことに驚かされます。今も昔も京は魔都なのです。
物欲を煽るは時代の流れに逆行している高田明その口舌を閉じよ 蝶人
↧