『京都の平熱 哲学者の都市案内』
講談社学術文庫 2167
鷲田 清一
講談社(2013年)
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僕は紀行文が好きなのですが、中でもとりわけ歴史文学作家や哲学者の書く紀行エッセイの類に強く惹かれます。単なる旅行日記の域にとどまらない、見聞きした物事から私たち普通の人間には考え及ばないような様々な深い考察を引き出してくる鋭い洞察力には感心させられます。
伝統的に、京都が生んだ哲学者というのは一流の紀行作家でもあるようです。昔であれば、例えば『いきの構造』で知られる九鬼周造が随筆を出していて、有名な円山公園の枝垂れ桜についての素晴らしい文を残していますが、現代の哲学者が書くこの本では、市バス206番のコースに沿った部分という、誰でも知っていて情景を思い浮かべやすい場所が取り上げられています。
観光客というのは時間が限られていることもあるのでしょうが、有名な寺や神社を訪れて写真を取ってお土産を買ったらそれで終わり、となってしまっているのは誠に勿体ないと思います。知的好奇心を満たしてくれる、その土地独自の本当にディープな世界というのは、大抵がスポットの当たる有名な部分の裏に隠れているからです。そういう部分をえぐり出して見せてくれるのがこの本で、やはり地元の人間、それも地元に閉じこもっているのではなく広く外の世界に飛び出し、客観的に内側を省みることの出来る知性を備えた哲学者だからこそ書ける本だろうと思います。
旅行のガイドブックに載っている情報というのは、平たく言えば誰にでも通じる客観的な情報です。しかし紀行エッセイというのは書き手が見聞きして感じたこと、つまり主観が入るために、その本一冊がひとつの思想に貫かれた物語を形成します。訪れる場所は同じでも、訪れる人間の考え方・捉え方によってそれを表現する言葉はまるっきり違うものになるわけです。だから僕は紀行文が面白いと思うのです。
時間の限られた観光客が鷲田氏のようなことをその都度考えながら各所を見て回ることはできないでしょうが、旅というものには様々な楽しみ方があり、ものの見方には様々な視点があるということを教えてくれる本であることには違いありません。
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