故郷の駅前に新しくできた居酒屋に今回は五人集まることになってたのだが、実際にやってきたのはたった三人だけだった。夏や正月の休暇になると、地元を離れて東京や大阪に行ってしまった友人たちも里帰りして来るので、一度集まろうよということになってからすでに十年ほどが過ぎた。毎回同じメンバーを中心に、時々は違うメンバーも現れて楽しい時間を過ごすのだ。最初のころは多いときでは十数名が集まってそれぞれの近況を披露し合った。だが、歳を重ねるごとになにかと用事が増えるのか、あるいは事情が変わったのか、出席しない人間も増えてきて、ここ数年は会そのものが一年開いたり二年開いたりしているのだ。
今回は二年ぶりの集まり。海外赴任していた山本が帰って来るということもあって集まったのだが、肝心の山本が帰ってこれなくなったという。それにもう一人は……。
「あいつさ、前回のときも妙な咳をしてたしなぁ」
和也がジョッキの底に残っていたビールを飲みほしてから呟くように言った。それを見た孝太は自分のジョッキを持ち上げて店員にお代わりの合図を出しながら答えた。
「そうだよ。煙草を止めろよって言ってやったのに」
純一も同じ話題に加わった。みんなもう三杯目の生ビールというあたりになると自分たちの話はひと通り済んでしまい、ここにいない人間のことに話が及んでいった。
「まさか急に癌が見つかるなんてさ、人間わからないもんだな」
「そういえば他にもいなくなった奴で……」
「ああ、聞いた。俊郎は胃がんだった」
「ステルスかなんかいうやつだろ?」
「あっけなかったらしい」
「お前、葬儀には行ったのか?」
「いいや。俺も後から聞いたんだ」
「なんだかなぁ……やだなぁ、そういうの」
「やだっても、もうそういう歳だもの、俺たち」
「そうなんだよなぁ、いやだいやだ」
急に純一が真面目な顔になって二人に質問をする。
「知ってるかい? なんで歳とると同窓会とか多くなるのか」
「同窓会が? たしかにな。若いころって何十年ぶりの同窓会だったものな」
「そうだろ? もう引退も近くなってから妙に同窓会って増えると思わない?」
「そうそう、小学校のも、中学校のも、最近やたらと多い」
「なんでだと思う?」
「さぁ……それって答えがあるのか?」
「あのな、教えてやる。誰だって、寿命が近付くと過去を振り返りたくなるものだ」
「ああ、それ、わかる」
「だろ? こないだ観た映画でもさ、余命宣告された主人公がさ、昔の知り合いん家を訪ねて回るんだよ」
「わかるなぁ……それで?」
「うん、みんなもうあまり先がないとわかったら、子供時代の友人や、昔世話になった店とかに行きたくなるのさ」
「なるほど。だからこうやって……」
「そうだ、同窓会っていうのは、言ってみればみんなそろそろ死ぬ準備をはじめているんだよ。そうとは意識してはいないがな」
「ほんとかよ、それ。誰が言った?」
「誰って……俺の考えだけどよ」
「なぁんだ」
「でも、それって案外そうなのかも知れないな」
「うんうん、説得力あるわぁ」
「で、肝心の山本はなんで来ないんだ」
「うん、詳しくはわからないが、帰国直前になにかトラブルがあったらしいんだ」
「トラブルかぁ……なんだろうな、それ」
「わからん」
「それにしても今回三人とはな、ちょっと寂しいな」
「まぁいいじゃないか、俺たちだけでもこうして集まれたんだから」
「でもさ、三人じゃぁもう、同窓会って感じでもないよな。こっち二人は地元暮らしでいつでも会えるんだしさ」
「そうだな。つまらんな、いつもお前の顔しか見れないなんてな」
「なにを!」
「まぁまぁ……いいじゃないか、それでも」
「次回、どうする?」
「どうするって?」
「この、同窓会だよ」
「続けようぜ」
「でもなぁ、なんだか同窓会って感じでもなくなってきてるし」
「そうか? それがどうした?」
「だから、どうしようかって聞いてるんじゃないか」
「まぁ、ただの飲み会ってことで」
「それもまたつまらんな」
和也と孝太のやり取りをしばらく聞いていた純一が口をはさむ。
「まぁ、また誰か加わるかもしんないし、あるいは、この三人のうちの誰かが欠けることになるのかもしれんし……」
「この三人のぉ……? いやなこというね」
「でも、その通りだな」
「だからもう、これから先はその都度どうするか考えることになるんだろうな」
「そりゃぁ面倒だ」
「だから、こうしよう。この同窓会。毎回考えるんだろ、どうしようかって。だからこれは」
純一が最後の言葉を言うのと同時に和也と孝太も声に出した。
「だからこれは、どうしょう会!」
二人とも純一のオヤジギャグにはすっかり馴染んでしまっているのだ。
了