『不思議な生き物』 池田清彦 2013/04 著者は生物学者。早稲田大学教授。 進化のナゾを最新の知識で解説する本。 ハムシのなかまの「トゲトゲ」という虫がいる。その名の通りトゲがある。この仲間にトゲのない「トゲナシトゲトゲ」がいる。虫の名前は、最初のほうが「性質」を表し、後半がグループ名というルールになっている。 ところがトゲナシトゲトゲの仲間でトゲのある虫が発見される。「トゲアリトゲナシトゲトゲ」である。さらに、トゲアリトゲナシトゲトゲの仲間でトゲのないものも発見された。「トゲナシトゲアリトゲナシトゲトゲ」ということになる。「トゲナシトゲトゲ」は最近「ホソヒラタハムシ」という無粋な和名も使われているという。 絶滅危惧種ヨナグニマルバネクワガタを指定前に捕獲し育てている人がいる。自然の個体は絶滅寸前である。ところがワシントン条約で譲渡もできないことになっていて、このままでは個人的に育てている人が亡くなれば同時に絶滅することになってしまう。保護するはずの条約が、逆に絶滅を助長している。 男性ホルモンは老化を促す非常に大きな原因であり、人間も睾丸を取ってしまうと長生きするという。 お腹の調子が悪くなった時に治す究極の方法は、調子の良かった時の便を冷凍庫で保存しておき、調子の悪くなった時にそれを溶かして肛門から入れることだと述べる。 DNAの遺伝子はタンパク質をコードしている。残りのジャンクDNAと呼ばれてきた部分の8割が、遺伝子の発現を抑制している。 ネオダーウィニズムでは進化は遺伝子に刻まれるとしているが、どうもそれだけではないらしい。ヒトの性別を決めるのはSRY遺伝子だが、これはたまたまSRY遺伝子があったから、これを性別決定に使ったのだという。SRY遺伝子を持っていない哺乳類もいる。カメなどの変温動物は温度で性別が決まる。バッタの仲間は密に生息しているかどうかで外見が異なる。これなどがエピジェネティック(DNAの変異でない)な現象である。 生物はより複雑になるのは簡単だが、単純になるのは難しいようにできている。複雑に分化した生き物は、進化の行程を後戻りできない。
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